あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
「風の便りで、光希歩ちゃんが入院してるって聞いたらしいわ。それで連れてきてくださったんだって」
だから海美ちゃんは、海光となって生きていたんだ。
「でも…本当は…」
そう言おうとして口を止めた。
海美ちゃんの家族は全員亡くなった。
お母さんも恐らくそうなのだろう。
カクが、他に親戚はいない、と言っていた。
ということは海美ちゃんは、本当に一人なんだ。
おばあちゃんのいる私とは違う。
誰もいないんだ。
家族がいない、それは施設への道を示していた。
そんなこと、させられない。
そんなことをするくらいなら、私と一緒に過ごしたほうが幸せなのではないか。
海光として生きる方が幸せではないだろうか。
海美ちゃんのことは、大抵なんでも知っている。
カクがよく話してくれていた。
誕生日も血液型も知っている。
なにかあっても大丈夫。
「ううん。なんでもない」
その日、その言葉で、海光は生き返った。