あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

名前だけの海光。
この子は本当の海光じゃない。
私の妹は一人だけ。

まだ一度も『お姉ちゃん』とは呼んでくれなかった。

私は、ちゃんとあの子のお姉ちゃんだったのだろうか。

どうして一緒に死んであげられなかったのだろうか。

「ねぇ…どうして私はここにいるの…?」

生きる意味が、存在するわけが、わからなくなった。

「それはね…助けてくれたのよ、名前も教えてくれなかったけど」

おばあちゃんはそう答えたけれど、私は今、そういう意味で聞いたわけじゃない。

「お医者さまから聞いた情報なんだけど、板に掴まった光希歩ちゃんを山の斜面から必死で引っ張りあげたんだって。濁流だったでしょうから、死にものぐるいだったと思うわ…」

私を助けてくれた人がいたんだ。

私なんかよりも…お母さんやお父さんや、カクやみんなを。他の人、一人でも助けてくれたら良かったのに。

「その人…今はどうしてるの?」

「それが…」

また顔をしかめた。
まさか私のせいで力尽きたとか…。

「光希歩ちゃんを助けた後、避難所に行ったらしいの」

「そ、それじゃあ…」

「でもね…血栓が肺に詰まって…亡くなったらしいの」

もう私の辛い記憶が薄れてきたと思ったのか、おばあちゃんはそうハッキリと言った。

……そんな。
それじゃあ、私を助けるためだけに生きたようなものじゃない!
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