私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
車に乗り込んだのは私と季龍さん。そして、運転手として信洋さん、助手席に田部さんが乗り込んだ。
「企業のパーティーに付き人は必要ですからね」
田部さんの言葉にすぐに納得する。陣之内の奥様がパーティーに出るときには必ず1人が同行していたから。
薄暗くなり始めた街を走る車が目指した先は、聞き覚えのあるホテルだった。
エントランスに横付けられた車。ホテルマンの手を制して田部さんが開けたドアから外に出る。
「お気をつけて」
おちゃらけた様子を見せない信洋さんは私たちを下ろすとどこかに走り去っていってしまう。
思わず車を見届けてしまうけど、すぐ後ろの車が同じ場所に停車するのを見て慌てて少し先にいた季龍さんの腕に掴まった。
歩き出した季龍さんに合わせて足を進める。先導する田部さんは迷うそぶりを一切見せずに先を進む。
「田部、何するために来た」
「…琴葉さんに戦う力を持っていただくためにですよ」
「は?」
「琴葉さん、今のあなたは“葉月 琴音”です。“田部グループの養子”であるあなたは、今夜が初社交界デビューです。決して“宮内 琴葉”の振る舞いはしないでください」
前を向いたまま淡々と告げる田部さんの言葉を心に刻む。