私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「キミは名乗らずに去るような、不躾を親に習ったのかい?」
季龍さんは半身のみ振り返ったまま、白髪の老人を睨む。
誰もが固唾を飲んでこの場の支配者と、立場不明の少年の行方を見つめる。
「…わかんねぇな」
季龍さんの一言で空気が張り詰める。
肩に回る手に力がこもる。
「あんたの用は急病人を無視してまでやらなきゃいけねぇのか」
季龍さんの言葉に一瞬起こったざわめき。
白髪の老人は一瞬こそ目を見張ったものの、すぐに表情を戻す。見え隠れする苛立ちを取り繕った笑みは気持ち悪い…。
「それは失礼した。なにせ、よく顔が見えなかったものでな」
口にした言葉こそ謝罪でも、その声音は決して謝っているものではなかった。
それでも、道を塞いでいたガードマンはその場を譲り、閉ざされていたドアは開く。
季龍さんは一切振り返らず開け放たれたドアをくぐった。