私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
深いため息をついた正裕は、あの時の琴葉の姿を思い返す。
胸元から袖に向かうにつれて桃色が濃くなるドレスを身にまとい、三つ編みを肩に流していた。
…きれいだと思った。
使用人として働いていた彼女からは想像できないほど、彼女の魅力を引き出されていた。
「ッ何を考えてるんだ!僕は」
そんなこと、考える資格なんかない。
いや、彼女のことを未だに好いていること自体、外道だ。
忘れていない。自分自身の罪を、彼女に与えた傷を…。紛れもなく、自分が彼女を傷つけ、家族の元から引き離したのだ。
そんな自分が、今こうして普通に生活してること自体、おかしいはずなのに…。
「お坊ちゃま、大旦那様がお呼びです」
「ッあぁ…今行く」
あの騒動があってから一新された使用人たちは、あくまで淡々と他人事のように職務をこなす。
それが寂しいような気がするのは、きっと以前にいた使用人たちの温かみに触れすぎたせいか…。
立ち上がり、導かれるままに客室に足を運ぶ。
普段は別荘で暮らす祖父だが、最近はなぜかこっちで暮らすようになった。
時々、父と言い争うような声も聞いたが、内容については一切教えられなかった。
気にはなったが、盗み聞きをする気も起こらなかった。