私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
客室のドアをノックすれば、すぐに開いたドア。中に足を踏み入れれば、上機嫌の祖父に出迎えられた。
「おぉ、正裕。準備はしておったようじゃな」
「はい、お爺様」
正装した孫の姿に、陣之内 総一郎(じんのうち そういちろう)は満足そうに微笑む。
一見、それは孫の成長を喜ぶ祖父の姿に見えたが、彼には常に表面で見せている顔とは別に裏で考えていることがあるようだった。
そしてそれは今日も同じなのか、何かを感じ取った正裕はさりげなく祖父から視線を逸らす。
『正裕、お前に見合う美しい娘を見つけた』
総一郎がそう口にしたのは、パーティーが終わって間もなくだった。
それが誰なのか、正裕が知ったのはつい1週間前。婚約が成立したと父から告げられ、その写真を見せられた時だった。
もちろん困惑したが、他でもない祖父の決定だ。正裕に覆せるわけがない。
反論できないままに時は過ぎ、気づけば顔合わせの日を迎えてしまった。
どんな顔をして会えばいいのか分からない。いや、そもそもこの婚約は本当に彼女の合意があったのだろうか。
考えても、見つからない答えに、焦りと不安がこみあげてくるのを、深く息を吐いて押さえ続けた。