私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「申し訳ない。まさか社交界に出た瞬間に婚約などという話が出るとは思っていなかったから緊張しているようじゃ。箱入り娘なのもでな。正裕殿、気を悪くされませんよう」
「い、いえ…」
何とか言葉を返した正裕だが、困惑はほぼ確信に近いものになって、琴音を見つめる。
どういうことなのか。何をしようとしているのか…。
頭の中にぐるぐるといくつもの予測と想像が浮かぶ。
だが、答えを見つけられるはずもなく、ただ混乱するだけだった。
「いずれ慣れるだろう。それで、披露目の日取りだが…」
「披露目?随分性急だな」
総一郎の言葉に、現実に引き戻された正裕は即座に反論に出た源之助に安堵の息を漏らす。
「性急?決まった婚約だ。発表は早い方がいいだろう」
「急がなければいけない理由でもあるのか?」
「まさか。孫の晴れ姿が早く見たいという老いぼれの最後の願いだ。…そちらこそ、早いと困ることがあるのか?」
正に腹の探り合いだ。
笑みこそ浮かべているものの、互いに目の奥は相手の思惑を見極めようと鋭い光を宿している。