私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)

「…あ、な、名前はなんて言うんですか?」

「え?名前ですか……」

琴音が発したのは取って付けたような質問だが、正裕が困惑するには十分だった。

庭に咲く花に興味など抱いたことはない。まして、名前など気にしたことすらない。

こんな時、琴葉、なら…。

「クリスマスローズ。冬の時期に咲く薔薇です」

「っえ?」

1輪の薔薇に手を添えていたのは、琴音が連れてきた女性の使用人。

その使用人に琴葉の影を見たような気がして、正裕は大きく首を振った。

「さっすがこ…ッ!!」

「え?」

「な、なんでもないです」

明らかに誤魔化した様子の琴音に正裕は、聞こうとしていたことを思い出したが、聞いてもいいか悩む。

「陣之内正裕様」

使用人の声に息が詰まる。

固まる正裕に、使用人はまっすぐと視線を向ける。

「あなたに、頼みがあります」

正裕は大きく目を見開く。

その瞬間、正裕は確信する。己の違和感が正しかったこと、琴音への疑惑を。

そして、続く言葉を黙って受け入れた。

客観視 end
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