私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「信洋、そのデータを公表する。準備しなさい」
「はい」
源之助さんと信洋さんは淡々と言葉を交わし、動き始める。
その間、陣之内総一郎はただ呆然とその場に立ちすくんでいるように見えた。
「琴葉ちゃん」
自分を呼ぶ声に自然と振り返る。自力で車イスを前に進めるおばあ様の姿に慌てて距離を詰める。
…まだ、信じきれていない自分がいる。目の前にいるおばあ様が、自分の都合のいい幻想にさえ思えてしまう。
おばあ様の前に立ったまま、動けずにいた。
「何て顔をしているの?…そうさせたのは、私のせいね」
「ッ…フルフル」
おばあ様に繋がれた手が温かい。首を横に振った私の頭を撫でてくれたおばあ様は、一際優しげに微笑む。