私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「ここからは、私が話そう。いいですか」
彼の問いかけに反対する者はいない。それを確認すると、再び視線が重なった。
「陣之内いろは…姉上は、経営の才に恵まれていた。それを父は認めていたし、一時は後継者にも考えていた。…だが、姉上はそんなもの、何も望まなかった。望んだのは、好きな男と一緒になること。それだけだった」
旦那様は私を見つめ、目を細める。まるで、私とお母さんを重ねているように。
そんな懐かしいものを見るような目をした旦那様は、悲しげに表情を曇らせた。
「姉上は、ある男性と交際していたが、父に結婚を猛反対されてね。姉上は勘当も覚悟で結婚を考えていたが、父が裏で手を回したんだろう。男性の方が蒸発した」
脳裏に微かに残る母は、いつも笑みを浮かべていた。そんな母に好きな人と別れさせられた過去があったなんて…。全然、知らなかった。
「姉上にすぐ新しい婚約者を連れてきた父だが、姉上は拒否した。塞ぎかけていた姉上に私は何も言えなかった。…でも、お前の父親だけは、違ったよ」