私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)

琴音の瞳に自分が映り続けている。俺をじっと見つめているようだった。

「琴音…、琴音」

バカみたいだ。呼ぶことしかできねぇのか、俺は…。

琴音の頬に滴が流れる。それが自分の涙だと気づいて咄嗟に拭う。

泣いてる場合かよ。早く、医者を呼んでやらないといけねぇのに。くっそ、止まんねぇじゃねぇかよ…。

声を噛み殺すように唇を噛む。ベッドに顔を押し付け、波が収まるのをじっと待った。

「…」

静かだった。

その静けさは少し不気味で、顔を上げた時琴音の顔を見て違和感を持った。

「…琴音?」

頭を撫でる。視線は俺に向いたまま。でも、表情は何1つ変わらない。

「琴音?なぁ、琴音?」

変わらない。表情が、瞳が。…感情が見えねぇ。

違和感の正体はそれだった。

琴音から何も感じねぇ。ただ、目を覚ましただけ…、なのか。

目の前が暗くなったような気がした。
< 23 / 407 >

この作品をシェア

pagetop