私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)

思わず身を縮めていると、後ろ手に玄関の戸を閉めた季龍さんはすぐに歩き出す。

閉ざされた門を開き、屋敷の敷地から完全に外に出る。

人の気配がない道路は、やけに静かでまるでこの世界に季龍さんと2人きりのように感じた。

門を閉める音に振り返るけど、即座に引かれた手に足を進める。

そこでようやく違和感に気が付いた。

「あ、あの車は…」

「ねぇよ」

「え?」

ない?…2人で、いや季龍さんが1人で出かけることなんて今までなかったはず。

永塚の屋敷を出るときは、必ず誰かが運転する車に乗っていたはずだ。

もしかして、季龍さん誰にも言わずにどこかに行こうとしてる…?

足は止まらないまま、視線を向けられる。季龍さんは少しだけ、ほんの少しだけ楽しそうに口角を上げる。

「たまには、悪くないだろう」

「…後で、怒られますよ」

鼻で笑った季龍さんは、再び前を向く。

朝霧のかかる街は、凍えてしまいそうなほど寒いはずなのに、季龍さんとつないだ手が熱くて、なぜか寒さをそれほど感じなかった。
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