私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
車が動き出すと、恐らく最短ルートで永塚のお屋敷に戻ってくる。
いつもと同じように門の前で止まると、季龍さんは先に車を降りていく。その顔は、もう永塚組の若頭としての顔をしていた。
「ここちゃん」
車を降りようとしたとき、信洋さんに呼び止められる。顔を向けるけど、信洋さんは前を見ているままだった。
「…若、どうだった?」
全部、知っているような言葉。
どこに行って、誰に会ってきたのか、分かっているような言葉だ。
…何て言えばいいんだろう。私が言ってもいいのかな。
口を閉ざしていると、もう一度呼ばれる。信洋さんは相変わらず前を向いていて、その表情は見えない。
「…季龍さんは、少し取り乱していました。…その後は逃げるように病院を離れました」
「……そっか。…ごめんね、変なこと聞いて。忘れて」
信洋さんは振り返らない。でも、フロントガラスに反射して僅かに見えた顔は、悲しそうに見えた。