私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)

「梨々香ちゃんは、どっちに行くの?」

「私は、表の世界に行くよ」

迷いのない、まっすぐな答えに思わず目を見開く。梨々香ちゃんは私を見て、笑うと後ろに手を付き、天井を仰ぎ見た。

「私ね、ずっと憧れてた。ヤクザとは何にも関係がない。放課後、友達とどこかに寄り道したり、1人で自由に出かけられる生活に」

そうだ。梨々香ちゃんはずっと、ヤクザの娘として生きてきた。常に護衛という名の不自由を押しつけられ、ヤクザの娘というレッテルを抱えて生きてきたんだ。

その不自由さは、孤独さは私が想像できないほどの重みだったんだろう。

「しばらくは誰かに頼んなきゃいけないけど、高校生になったらバイトして、働けるようになったら1人暮らししたい!…それで、将来は好きな人と結婚したい。裏の世界にいたんじゃ、できないもんね!」

無邪気に笑って見せる梨々香ちゃんは、勢いをつけて後ろについていた手を離して前のめりになる。

髪の毛が梨々香ちゃんの表情を隠し、勢いが消えきらずに揺れる。

「…お兄ちゃんと離ればなれになっても、私はもう決めたんだ」

消え入るような声で口にした言葉は、その決意を揺るがしてしまいそうなほど震えていた。

表の世界で生きたい。でも、それ以上にたった1人の兄との別れの可能性を恐怖している。
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