私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
「琴葉、いいよ。好きなだけ泣け」
頭を撫でてくれる手は、夢の中のお母さんと同じあたたかさだ。
すがるように成夜にしがみついて、このまま泣き過ぎて身体中の水分がなくなってしまうんじゃないかってくらい泣いた。
これまで、泣けなかったのが嘘のように、何をしても泣き止まない赤ちゃんのように泣き続けた。
『琴音』
『…お前は必ず守る。…だから、傍にいろ』
『俺が女好きになったのは、初恋も今も、琴葉だけなんだよ』
季龍さんの声が耳の奥でよみがえる。
…どうして、季龍さん……。どうして、置いていったんですか?どうして、傍にいたらいけないんですか?
私が言うことを聞かなかったから?季龍さんにとって、もう必要じゃなくなってしまったから?
もう、私はあなたの傍にいる権利はないんですか?
ただ置いて行かれたんじゃない。なにも言わず、嘘をついてまで、この鍵だけを残して行った季龍さんの意思は、私がお父さんのもとへ帰ることを望んでる。
それは、季龍さんの傍にはもう戻れないことを暗に示してるだけじゃない。もう二度と、会うこともないっていう決別だ。