私のご主人様Ⅴ(SS?投稿しました)
不意に距離を詰めてきた季龍さんを見上げる。肩に手を置かれ、耳元に口を寄せられた。
「愛してる」
呟かれた言葉に、一瞬、一瞬だけ、答えを後悔した。
背を向けて歩き出した季龍さんは、式に参加するつもりはないんだろう。…もしかしたら、私がこのタイミングでここに来なければ、会うこともせずに帰ってしまったんじゃないか。
そこまで考えてやめる。
季龍さんの気持ちは過去なんだ。もう、終わってること。
そうでしょう?…そう、決めたんだよ。
断崖絶壁の海へ視線を向ける。
右手に手にしたものを、もう一度見ることなく海に向かって放り捨てた。
手から離れた指輪とネックレスがキラキラと反射しながら海へ落ちて、消えていく。
…さようなら、大好きだった人。
海をしばらく見つめていたけど、自分を呼ぶ声に教会へ視線を戻す。その入り口で呆れたような顔をしている旦那さんに思わず笑みがこぼれた。