タイムスリップ
「んーーーーーっ、はぁ〜…」

さすがに1時間ぶっ続けで泥団子作りは疲れたのか、海香が大きく伸びをする。

「そろそろお開きにする?」

不器用で上手く作れず、ずっと手こずっていた私は最初の5個くらいで飽きてたので正直もう辞めたかった。

「そだね〜まぁ正直最初から勝負は決まってたようなもんだったし、このまま続けても意味ないか。いい感じに暇も潰せたしね。」

「そーいえば花火するんだよね?」

本来、海の近くの旅館にしたのは夜に花火をする為だ。
まぁ私が花火忘れたせいで危うく泥団子しに来ただけみたいになるところだったけど。

海香に感謝…


「するよ〜、今は…16時過ぎか…一旦旅館戻ってご飯食べてから来る?あと2時間くらいしないと暗くならないし。」

「ご飯!!お腹すいた!!」

あんなに立派な旅館なんだからご飯もさぞ美味しいだろな…

私はまだ見ぬ今日の夜ご飯によだれをたらし…もとい、思いを馳せた。

「希空、口開けっぱでよだれ垂れてるけど。あんた一体いくつよ…?」

「よだれ違うよ!!思いを馳せてたんだよ!!」

「はいはい。ほら、じゃあ早く旅館戻るよ」

「ごっはん〜♪」

私達は泥だらけになった手を海で洗い流して帰り支度を始めた。


「あ、泥団子どうする?潰す?」

飲み物をリュックに入れながら結那が言う。

「え、いや潰さないでよ!泥団子が可哀想!!」

「ええ…いやでもどうせここ置いておいても波に攫われたりとかで崩れるでしょ…」

「自分で崩すのと自然の力で崩れるんじゃ全然違うでしょ!?」

「いや一緒だろ」

「とにかく!この泥団子達はどこか安全な場所に避難させる!」

「希空って変なとこで熱くなるよなほんと…で?安全な場所とはなんぞや?」

「それはーーーー…その〜……………」

海香からのジト目から逃げるように思わず後ろに目線を逸らす。


その時、100mくらい先に洞窟のようなものが私の目に入った。

ゴツゴツとした大きな岩の中心はぽっかりと穴が空いて、真っ黒に染まっている。


「ねぇ海香、あれって…洞窟?かな?あの、100mくらい先にあるやつ。」

「ん?どれ?あー…洞窟だね。うん。ただ絶対100m以上離れてると思うけどね。お前の距離感どうした?」


「だっ、だいたい100mだからいいんだよ…!とにかく!あそこなら安全だと思うし、あそこに泥団子置いてくるね!ちょっと待ってて〜!」

私はバケツに適当に見繕った泥団子を5、6個入れて洞窟に向かって駆け出した。

さすがに全部は多すぎる。
すまんな。

「ちょっ、希空ーー!?!?一人で行ったら危ないよー!?」

後ろから海香の声が聞こえたが無視して走る。

今はなんだか泥団子がどうとかいうよりも、初めて見る洞窟にとても興味を惹かれていた。

「はぁ……はぁ…いや…つっかれた…無理…」

全力疾走を1分程。
確かにこれは100m以上ある。

「ふぅ……結構奥行きがある…な…」


肩で息をしながら洞窟の奥を見る。

明るいところは入口からせいぜい2mくらいで、そこからは先の見えない暗闇が広がっていた。


「ちょっとだけ…中、入ってみよかな…」

――好奇心は猫を殺す――

いつか読んだ小説の言葉を思い出す。

だけど今は目の前の暗闇の中に入ってみたい。

私は洞窟の入口にバケツを置き、スマホのライトを付けて一歩、また一歩と奥に進んで行った___











< 19 / 27 >

この作品をシェア

pagetop