紅茶色の媚薬を飲まされて
請うようにそっと頰に唇を寄せると、びくりとカバリが震えた。
「ぜんぶ、もどかしくておかしくなりそうなんです」
事実ネルの身体は、蛇が全身を舐めずり回るような、耐えられないもどかしさでいっぱいになっていた。
欲望に潤む瞳でネルが見つめると、カバリは己の中にあるネルへの感情を否が応でも自覚する。
もう3年ほど前のことになるがーー初めて会った時から、カバリはずっとこの娘が欲しかった。
才女と名高い彼女は、その知性と優しさを秘めた瞳と、柔らかく波打つ赤髪を揺らし、初めて紅茶殿を訪れたカバリに困ったように微笑んだのだ。
カバリ様が来るような場所ではありませんのに、と言いながら、王のための紅茶を出すよりも先にカバリのために一杯の紅茶を煎じてくれた。
王には内緒ですよ、と人差し指を唇に当て、そのとき怪我のために剣を握れなかったカバリの傷を癒す紅茶を差し出した。
あのとき怪我をしていてよかった。
でなければ、王に紅茶殿に使い走りさせられることもなければ、彼女に出会うこともなかったのだから。
あれからすっかり怪我は治ったが、カバリは紅茶殿に足を運ぶのをやめられなかった。
見つめると、照れたように顔を赤くする。
選定師としての腕を褒めると、嬉しそうにはにかむ。
その姿を見ているのが何より楽しかったのだ。
けれど今、ネルはカバリが見たことも無いような情欲に塗れた反応を見せ、すぐそばに居る。
あの初々しく微笑むネルしか見たことが無かったけれど、この娘はこんな風に男を欲するのか。
そして、他の誰でも無く、ネルはカバリを求めているのだ。
ーーはやく。
そっとネルの唇が動く。
耐えきれずに、その小さな薔薇のような唇にカバリは荒々しく噛み付いた。