紅茶色の媚薬を飲まされて
いきなりの謝罪に、ネルは「え?」と首を傾げる。
ばつが悪そうに眉を寄せるカバリを見つめ続けると、カバリは深いため息をついて、「あの王は本当に……」と小さく吐き捨てた。
「王が所望した今朝のこの紅茶なんだが……ネル、君宛てだそうだ」
「!?」
「ウソをついてすまない。だが、今日はエイプリルフールだから君も許してくれるだろう、と王は笑っておいでだ」
「あ、あの、意味がわからないのですが……これを、私が飲めってことですか!?このたっぷり媚薬入りの紅茶を?」
「ご、午後休はすでに提出済みだと王は言っていたんだが」
「意味が分かんないです!」
破廉恥だ。破廉恥すぎる。王が希望するって言ったからあんなに媚薬成分を入れたのに、自分で飲むなら手加減すれば良かった。っていうか本当になんの罰ゲームなのこれ。
「ちなみに勅命だ……」
「ほんっと、馬鹿なんですか!?あのクソ王は!」
勅命(ちょくめい)とは王直々に発せられる命令のことで、逆らったら逆賊と見なされる最高レベルの命令だ。
涙目になりながら、嫌々とカバリに懇願するも、諦めてくれと謝罪された。
勅命というならば諦めるしかないけれど、こんなの横暴すぎるし意味不明すぎる。
「せめて私が飲まなきゃならない理由を教えてください……」
がっくりとうなだれて、ネルはそれだけ尋ねた。
納得できる理由ならばもう少し楽に飲めそうだ。