紅茶色の媚薬を飲まされて
「……本当に、騙すようなことをしてしまって申し訳ない」
頭を下げるカバリに、ネルは首を横に振る。
「勅命なら仕方ないです、逆らえないですよね。
それに、嫁ぎ遅れた私にも非があります。紅茶の勉強しかしないで、もう二十四歳ですもん…」
へへ、と笑って出来るだけ水っぽくならないように自虐する。
二十歳そこそこまでは言い寄られることもあったけれど、紅茶殿に勤めてから三年、パタリと何も無くなった。そろそろ周りに心配されても不思議ではない。
「……あーあ、本当に、誰か引っかかってくれないかな」
なんだか情けなくて、ついそう呟いてしまってからハッと息を飲む。
驚いたようなカバリの表情に、慌ててネルは否定した。
「あ、あの、冗談ですよ!気にしないで下さい、あは、あはは……」
目の前にはカバリしかいないのに、彼に向かって、誰か引っかかってくれないかな、なんて。
まるで私を襲ってくださいと言っているようなものだ。
(破廉恥だ。王より私が破廉恥大魔王だ!!!)
カーーっと赤くなる頰を止められないまま、ぐるぐる回る思考の中で、ネルは恥ずかしさを紛らわそうと一気に手に持っていた紅茶を飲み干した。
飲んだ瞬間、生姜のようにキュウっと喉が熱くなる。
「んんっ」
噎せそうになるのをぐっと堪えて、ぷはっと息を吐き出した。
熱い。
熱くて、少しぼうっとする。
だめだ、意識がちゃんとしているうちに、カバリを帰らせなければ。