紅茶色の媚薬を飲まされて
「ネル……」
湿っていて、そして熱い声が耳を打つ。
あのカバリが、こんな声でネルの名を呼ぶ。
それがなんだか嬉しくて可笑しくて、ついくすくすと笑ってしまう。
「何が可笑しい」
全部ボタンを外し終えた彼は、不本意だと言うように眉を寄せた。
それには答えず、ネルはそのままシャツを脱いだ。ようやっと濡れた気持ち悪さから逃れることができてホッとした。
けれど目の前のカバリは、気まずそうにネルから視線を逸らす。
それがなんだか悲しくて、ネルはぎゅうっとカバリの服の袖を引っ張った。
「目、合わせてくれないの?」
「い、今は遠慮する」
「どうして?」
「さすがに……自分を保てそうにない」
なんのことか分からなかったが、目を合わせてくれないらしい。
仕方なく、カバリに近づいて顔を覗き込んだ。
あきらかに動揺して揺れる瞳が、やっぱり可笑しくて笑った。
「……っ、ネル、いつになったらその媚薬は抜けるんだ?
君から離れないといけないのに、そんな状態で他の男に会われたらと思うと部屋を出ることもできないだろう」
「他の男?」
「誰でもいいから引っかかってくれないかと、君が言ったんだろ……っ」
堪えるように吐き捨てて、彼は苦しげにネルを見つめる。
その表情はなにかを求めているようなのに、ネルにはそれが何か分からない。
けれど、カバリが苦しいのは嫌だ。