【短】いわゆる1つの愛というもの
いわゆる1つの愛というもの

愛しかった。

とても、好きだと思った。

それだけで、十分だとも…。



けれど、いつの間にか全部欲しいと思い始めた。


それが、お互いの為にならないと分かっていたのに…。



「かーずとっ!」

抱きつくようにして、後ろから声を掛ける。
だけど、その気配を察知してか、彼は私を寸での所で避けた。
すかっと空振りした私は盛大に剥れてみせる。


「もー…良いじゃん。減るもんでもなし」

「ばぁか。何言ってんの?俺のは特別減るんだよ」


幼い頃から傍にいた、いわゆる幼馴染の和登。
優しくて、頭が良くて、頼り甲斐のある彼は、年を取るごとに皆から好かれ、どんどん遠くなって行った。


それでも、私は幼馴染として…それだけを頼りに…彼との距離を詰めようと日々苦戦していた。


だって、欲しいじゃないか。
初めて好きになった人の全ては…どんなものよりも魅力的でしょう?


それは、ある意味私の欲求を全て満たしてくれるほどの威力があると言っても過言じゃない。

好きで好きで好きで。
呼吸が止まりそうなくらい、大好きで。

彼の何もかもを、この手に出来たら。
奪ってやれたら…。

そんなことばかり、最近じゃ考えては溜息を吐く。


こんな、危うい感情は、本当に恋?
それとも…私の、勘違いなの?



これは、誰にも問いただせない私だけの問いかけ。

そう思えば思うほど。
果てしなく空は群青色に染まり、この胸に深紅の血を流していく。

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