【短】いわゆる1つの愛というもの
そして、その日を境に。
私は甲斐甲斐しく、和登の恋のお世話をしている。
どこかで、早く失恋してしまえ…なんて酷いことを考えながら。
どこかで、早く憧憬として恋心なんて失くしてしまえ…なんて最低なことを考えながら。
ここにこんなに、貴方を好きな人がいるんだよ。
ここにこうして、両腕を広げている人が…。
なのに…。
「やっぱり菜央先輩って可愛いのな」
「…………」
そんな、照れくさそうに話さないでよ。
胸が苦しい。
だから言葉が口元に引っ掛かって詰まるよ…。
誰なの?
初恋は実らないだなんて、悲しいことを言い出したのは?
最初はただの間違いだと思ってた。
だけど、今は……。
やけに、沈黙が耳に痛い。
「どうしたんだよ?郁乃?」
「なんでもないよ?」
「なーんかお前らしくないな?何かあった?」
そんな風に、期待させるような声で…何でも分かったようなことを言わないで?
私の気持ちも知らないくせに。
それでも私は力なく首を横に振って、「なんでもないよ」と言い返した。
和登はそんな私を横目でチラリと見て、「ならいいけど」なんて言うだけ…。