ダメ。俺のそばにいて。
「…すごい!すごいよ!久遠くん、すごいピアノ上手いんだね…!」
「そう?これくらい普通だよ。」
やっとの思いで、興奮から言葉を紡いだというのにキョトンとされた。
本人は本当になんとも思っていないのか、首を傾げているし。
だけど、私の興奮は収まらないみたい。
だってこんなに上手い人に初めて出会った…!
「普通じゃないよ、こんなに上手い曲聞いたことないよ!」
「別に今もミスとかしてたんだけど。」
「え、そうなの!?いや、全然気づかなかったっていうか、むしろそのミスすらも1つの曲になってたっていうか…!!」
「…ははっ、なんでそんな一生懸命なの?」
感動をとりあえず伝えたくて、必死に熱弁していたのに、声に出して笑われた。
だけど、その微笑みが柔らかくて。
私まで口角が上がる。
「だって、本当に素敵だったから…。昨日も、あの素敵な曲につられてここへ来たから…。」
「そうなんだ、てっきり誰かに見つかったのかと思ってた。」
見つかる…?誰かって、誰に?私?
疑問が顔に出てたのか、久遠くんは私の顔を見て、ふるふると首を横に振った。