ダメ。俺のそばにいて。





「でも、私やっぱり久遠くんのピアノ本当に好き!」



そう言って、久遠くんの方へ顔を向けた途端、



…………っ、時が止まる。




思いの外近くにあった顔。お互いに動けば触れてしまいそうで。



透き通るグレーの瞳が私を離してくれない。




この前も、難波くんとこんな近さになったりしたけど、…その時とは比べものにならないくらい、胸が締め付けられる。




一瞬にも永遠にも感じた時間の後、動いたのは久遠くんの方だった。



形のいい唇を弧の形にして、微笑む。



その瞬間、私も我に返ってとっさに俯いた。




「星玲奈、耳赤い。」



「え、うそっ、ていうかいいからそんなとこ見なくて…!」




あああ、もう恥ずかしい!



勢いよく右耳を手で塞ぐとクスクスと笑う声。




なんでこんなにプリンスは楽しそうなの…!





< 89 / 175 >

この作品をシェア

pagetop