God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
「てゆうか、ゴメン。もう今日の作業って終わりだよね」
「今日はもう来ないかと思った」
「どうしょうかと思ったんだけど。荷物もあるし」
そこで阿木がヒョッと立ち上がったかと思うと、
「私は浅枝さんと寄る所あるから。お先に」
そして2人でさっさと出て行ってしまった。すると浅枝だけササッと戻って来て、「ま、真木くんにも話があるの」と、浅枝は真木を引っ張って、一緒に出て行く。これは……分かりやすい余計な気を回してくれたのか。
俺は桂木と顔を見合わせ、「そう来るか」「そう来たね」
「阿木さんが出て行く時、ひょっとして怒ってるかな?って思って焦った。あなた今頃来て何?みたいな」
「阿木と……うまく、いって、ない、とか?」
ナイーブな問題なので、言葉を選んだつもりが、ド直球である。
「それは無いけど。そういうんじゃなくて。なんだろな」
桂木はしばらく考え込んで、「どことなく」と、言いにくそうに、
「あたし、同情されてるような気がする」
それは、あながち間違いでもない。
阿木は気付いているのだ。この茶番。2人の曖昧な関係に。
そして、思い出しているのだろう。俺と右川の、いつかの。
〝沢村くんて、ほぼほぼ真面目だけど。肝心な所が、いい加減なのね〟
とか、思ってる。あの顔は。
そして桂木の感じた通り、同情している可能性が高い。
「バスケっていう縛りに振り回されてるから、かな」と勝手に納得して、桂木はイスに座り直した。
桂木と2人だけになる。
誰も居なくなった途端、空気が落ち着かない。こういう状況で、桂木と何を話すのか。このチャンスに決着か。
いや、せっかく自然に任せているのに、ここで寝た子を起こすな。
言葉を探して迷っていると、桂木の方が気を使って、
「右川ってさ、100パーセント置き勉なんだね」
第一声が、これだった。右川の会、相も変わらず。
「いつも荷物が多いから、ちゃんと持ち歩いていると思ってた。偉いな、って感心してたけど」
この部屋もまた、都合よく使われているのだ。
右川の教科書を整え始めた桂木に向けて、
「放っとけ。1回世話やくと、最後までそうなるぞ」
わざわざやる事は無いけれど、たまたまやったら、最初から最後までやる事になってしまう。
俺は親切に忠告したつもりだが、「説得力あるね。リアルガチに経験者は」と返り討ちにあった。
それより。
「バスケ部、何かあった?」
永田に呼び出されたと言うからには……桂木は何か聞いている。そう思えた。
半年分の計算が無い。そして、やり直しを言い渡してから、回答がまだ1度も返ってこない。陳情も寄せてこない。そして、永田が妙におとなしい。黒川の下ネタにも反応が薄く、「向こう行けよッ」と、Gカップ小池嬢すら、今は追い払っているのだ。
「実は、さっき聞いたんだけど、会計のイトウくんが入院したらしくて」
部活中に骨折。会計係が消えて、そこから会計作業が進まない。
永田が嫌がられながらも病院に通いつめて、色々と聞いているらしい。
「分かんないトコばっかりだって、さっき永田に泣きつかれちゃったよ」
……あのさぁ、沢村。
桂木に顔を覗きこまれた。
近い。
近い。
近い。
その気配が、特別な熱を保って圧迫する。
こうゆう雰囲気は、ただならない。何を言われるだろう。
ちょっと身構えた。
委員会に間に合わない。バスケ部に温情。去年よりも、もう少し融通して。
頭にグルグル回って……。
「忙しいね。生徒会って。沢村の言うとおり」
やけに砕けた物言いで、逆にこっちは拍子抜けした。
桂木は力を抜いて、椅子にもたれ掛かると、
「でも、あたし楽しいよ。充実っていうか、血が燃えるっていうか」
「確かに、そうゆう事もあるかも。……そうだな、桂木は向いてるかもな」
ホントは悪いと思ってる。
新人の真木だけに気を奪われがちだが、その実、桂木も生徒会初心者だ。
真木を気にしてばかりで、同じ境遇の桂木は放ったらかし。そう文句を言われても不思議じゃない。正直、桂木には、何を言っても1人でどうにか片付けてくれるだろうという安心感があった。
そこを詫びると、
「そうだよね。あたしって、いつもそう。誰も気にしてくれない。心配してくれない。出来なかったら、どうしちゃったの?って心配されるけど、ちゃんと出来ちゃうからな。困った事に」
桂木は、鼻先で小さく笑った。
確かに、1を聞いて10を知るではないけれど、全部を言わなくてもどこかで察して、気付いてくれて、こっちが何を言わなくても……それは選挙の頃から、ずっと。
「俺ばっかり助かってるかも。ずっと、やってもらってばっかりで」
まるで自分自身に言い聞かせるみたいだった。
今の精一杯で感謝を打ち明けたら、桂木は、ぱあっと顔を赤らめて、「やだもう。キモ~い」と、テレ隠しに悪態をついた。「なんだよ、キモいって」と、こっちもムッときた振りぐらいはいいだろ。このまま、また妙な雰囲気になったらどうしよう……と警戒しながら。
次の話題を探していると、桂木の方から、「最近、真木くんと仲良しだね」と来た。
「右川が?」
「じゃなくて、キミ。男同士で」
違った。これはヤキモチと言えるのだろうか。
「どうにか上手くやってくれよ。頼むって。桂木なら大丈夫だと思うけど」
「大丈夫か。また言われちゃいましたけど」
はいはい、と桂木は気の無い返事をして、
「だったら、1つお願い」
1度と言いながら何度も聞いた。
桂木は、いつもそれが口癖のように出るみたいだ。
「ほんと忙しくて毎日くたくた。3年だから勉強もしなきゃだし。沢村が言うように休みの日に出かけるような余裕なんかなくて。あたし、沢村とはこうやって生徒会の仕事しながら話したりで、いいかもしれないって思ってる。だけど、せめて……帰り道ぐらい一緒に帰ってくれたら、もっと大丈夫なんだけど。そういうのも、嫌かな?」
桂木の、譲れないギリギリのライン。
こればかりは誤魔化しが利かない。俺にとっても境目だと思った。
「……生徒会に居たら、自然とそういう事になるんじゃないかな」
その先の結論を先送り。結果、ズルい事に変わりなし。
口で言うほど上手くいかない。
それでも桂木は、「うん。良かった」と納得して、
「色々回りくどい事しちゃって、迷惑かけてごめんね」
右川に比べりゃ迷惑のうちには入らない。
こういう時、思うのだ。
桂木といい阿木といい、常識観念のあるやつがホイホイと右川に取り付く。
あいつには常識の欠片もないのに何で?と、そこが不思議でしょうがない。
そう言えば、山下さんも。
ひょっとすると、俺もその一人じゃないかと、疑う事さえあるけど。
桂木は、右川の私物を全て整えた。「あんまり甘やかすなって」と思わず説教したくなる。
「って言われても……ちょっとだけ。あたしが書記になれて、こうやって沢村と話せるのは、右川のおかげだからさ」
これだよ。
それは分かるけど。
だからと言って。
まるで俺も同罪だと言わんばかりに、「でしょ?」と、にっこり笑われても。
4時を回って、桂木と2人、生徒会室を出た。
夕方には、全然早い。つい最近まで、5時を過ぎても帰れる日は無かった。
たった1時間早いだけで、まるで休日を迎えるように浮かれた気分になる。
水場を通りがかった所で、巨大な防具を担いだ剣道部と遭遇した。桂木と居る所を主将男子に見つけられ、冷やかされると思ったら、静かに笑って受け入れられて……それもどうかと思う。
「今日は右川会長が下見に来たよ。ずいぶん武道場の周りを見てたけど。異常ありません、ってさ。警備もしてくれるの?今年の生徒会は」
剣道部主将の目は笑っている。ていうか、こちらをイジっている。
「んなワケねーだろ」
警備という名の元、アイツはお宝探し。学校中を漁り、恥を晒しているのだ。
剣道部主将は、俺とは中学から一緒である。
交番勤めの父親を持ち、穏やかで真面目な性格。成績優秀。型にはめたような坊主頭に、どことなく愛嬌のある二重の目元が特徴的だ。その優しい物腰は、右川のような図々しいヤツでさえ、追い払う事などできないタイプ。
だからそこに、つけ込んでいるのだ。あのチビは!
「あのさ。まともに相手にしなくていいから。今度来たら追い払ってくれよ」
「そんなこと言ったって」
「会長さん、次は弓道部だとかで。張り切ってましたね」と、横から後輩がやって来た。
「レベル5の武器がどうとかこうとか」
宝とか武器とか、学校を狩り場に見立てて遊んでるとしか思えない。
「竹刀は脆くてレベル低い、ってダメ出しされちゃったよ。凹むワ」
「あ、でも先輩、防具は意外とレベル高かったみたいです」
「そうなの?どこがって?」
「主将……」
思わず、その肩をポンと叩いた。バカバカしい。てゆうか、真に受けないでくれ。落ち込む事じゃないだろう。(喜ぶ事でもないゾ。)
お宝探しを止めさせるべく1度ガツンと説教する必要があるかもしれない。
桂木と2人、中庭を通りがかると、掲示板にはまたしても相々傘。
〝せとかい&スイソー〟の落書きがあった。全く!誰だか知らないけど。
「本当しつこいな」
俺はいつものように掲示板から取り外して、クシャクシャに丸めた。
「あたし、嫌な事考えちゃった」
聞いて聞いて。
と、桂木は目で訴えて来るので、仕方なくその先を促した所、
「仕事サボるために、右川が自分で落書きして、事件をでっち上げた……つまり、自作自演」
ギョッとした。
1番ありえると思った事はもちろんだが、これだから〝女子の仲良し〟は信用できない。
確かに、あいつは目的の為なら何でも利用する。
自作自演が事実かどうかは別として、この落書きに都合よく乗っかり、あまつさえ犯人探しという名目を利用して〝お宝探し〟。
雑用から逃げ出して、探し歩き、うっかり金でも見つかれば、一石三鳥。
いや待てよ。この所は雑用も前向きでサボってないんだけど。
……?
「今日はもう来ないかと思った」
「どうしょうかと思ったんだけど。荷物もあるし」
そこで阿木がヒョッと立ち上がったかと思うと、
「私は浅枝さんと寄る所あるから。お先に」
そして2人でさっさと出て行ってしまった。すると浅枝だけササッと戻って来て、「ま、真木くんにも話があるの」と、浅枝は真木を引っ張って、一緒に出て行く。これは……分かりやすい余計な気を回してくれたのか。
俺は桂木と顔を見合わせ、「そう来るか」「そう来たね」
「阿木さんが出て行く時、ひょっとして怒ってるかな?って思って焦った。あなた今頃来て何?みたいな」
「阿木と……うまく、いって、ない、とか?」
ナイーブな問題なので、言葉を選んだつもりが、ド直球である。
「それは無いけど。そういうんじゃなくて。なんだろな」
桂木はしばらく考え込んで、「どことなく」と、言いにくそうに、
「あたし、同情されてるような気がする」
それは、あながち間違いでもない。
阿木は気付いているのだ。この茶番。2人の曖昧な関係に。
そして、思い出しているのだろう。俺と右川の、いつかの。
〝沢村くんて、ほぼほぼ真面目だけど。肝心な所が、いい加減なのね〟
とか、思ってる。あの顔は。
そして桂木の感じた通り、同情している可能性が高い。
「バスケっていう縛りに振り回されてるから、かな」と勝手に納得して、桂木はイスに座り直した。
桂木と2人だけになる。
誰も居なくなった途端、空気が落ち着かない。こういう状況で、桂木と何を話すのか。このチャンスに決着か。
いや、せっかく自然に任せているのに、ここで寝た子を起こすな。
言葉を探して迷っていると、桂木の方が気を使って、
「右川ってさ、100パーセント置き勉なんだね」
第一声が、これだった。右川の会、相も変わらず。
「いつも荷物が多いから、ちゃんと持ち歩いていると思ってた。偉いな、って感心してたけど」
この部屋もまた、都合よく使われているのだ。
右川の教科書を整え始めた桂木に向けて、
「放っとけ。1回世話やくと、最後までそうなるぞ」
わざわざやる事は無いけれど、たまたまやったら、最初から最後までやる事になってしまう。
俺は親切に忠告したつもりだが、「説得力あるね。リアルガチに経験者は」と返り討ちにあった。
それより。
「バスケ部、何かあった?」
永田に呼び出されたと言うからには……桂木は何か聞いている。そう思えた。
半年分の計算が無い。そして、やり直しを言い渡してから、回答がまだ1度も返ってこない。陳情も寄せてこない。そして、永田が妙におとなしい。黒川の下ネタにも反応が薄く、「向こう行けよッ」と、Gカップ小池嬢すら、今は追い払っているのだ。
「実は、さっき聞いたんだけど、会計のイトウくんが入院したらしくて」
部活中に骨折。会計係が消えて、そこから会計作業が進まない。
永田が嫌がられながらも病院に通いつめて、色々と聞いているらしい。
「分かんないトコばっかりだって、さっき永田に泣きつかれちゃったよ」
……あのさぁ、沢村。
桂木に顔を覗きこまれた。
近い。
近い。
近い。
その気配が、特別な熱を保って圧迫する。
こうゆう雰囲気は、ただならない。何を言われるだろう。
ちょっと身構えた。
委員会に間に合わない。バスケ部に温情。去年よりも、もう少し融通して。
頭にグルグル回って……。
「忙しいね。生徒会って。沢村の言うとおり」
やけに砕けた物言いで、逆にこっちは拍子抜けした。
桂木は力を抜いて、椅子にもたれ掛かると、
「でも、あたし楽しいよ。充実っていうか、血が燃えるっていうか」
「確かに、そうゆう事もあるかも。……そうだな、桂木は向いてるかもな」
ホントは悪いと思ってる。
新人の真木だけに気を奪われがちだが、その実、桂木も生徒会初心者だ。
真木を気にしてばかりで、同じ境遇の桂木は放ったらかし。そう文句を言われても不思議じゃない。正直、桂木には、何を言っても1人でどうにか片付けてくれるだろうという安心感があった。
そこを詫びると、
「そうだよね。あたしって、いつもそう。誰も気にしてくれない。心配してくれない。出来なかったら、どうしちゃったの?って心配されるけど、ちゃんと出来ちゃうからな。困った事に」
桂木は、鼻先で小さく笑った。
確かに、1を聞いて10を知るではないけれど、全部を言わなくてもどこかで察して、気付いてくれて、こっちが何を言わなくても……それは選挙の頃から、ずっと。
「俺ばっかり助かってるかも。ずっと、やってもらってばっかりで」
まるで自分自身に言い聞かせるみたいだった。
今の精一杯で感謝を打ち明けたら、桂木は、ぱあっと顔を赤らめて、「やだもう。キモ~い」と、テレ隠しに悪態をついた。「なんだよ、キモいって」と、こっちもムッときた振りぐらいはいいだろ。このまま、また妙な雰囲気になったらどうしよう……と警戒しながら。
次の話題を探していると、桂木の方から、「最近、真木くんと仲良しだね」と来た。
「右川が?」
「じゃなくて、キミ。男同士で」
違った。これはヤキモチと言えるのだろうか。
「どうにか上手くやってくれよ。頼むって。桂木なら大丈夫だと思うけど」
「大丈夫か。また言われちゃいましたけど」
はいはい、と桂木は気の無い返事をして、
「だったら、1つお願い」
1度と言いながら何度も聞いた。
桂木は、いつもそれが口癖のように出るみたいだ。
「ほんと忙しくて毎日くたくた。3年だから勉強もしなきゃだし。沢村が言うように休みの日に出かけるような余裕なんかなくて。あたし、沢村とはこうやって生徒会の仕事しながら話したりで、いいかもしれないって思ってる。だけど、せめて……帰り道ぐらい一緒に帰ってくれたら、もっと大丈夫なんだけど。そういうのも、嫌かな?」
桂木の、譲れないギリギリのライン。
こればかりは誤魔化しが利かない。俺にとっても境目だと思った。
「……生徒会に居たら、自然とそういう事になるんじゃないかな」
その先の結論を先送り。結果、ズルい事に変わりなし。
口で言うほど上手くいかない。
それでも桂木は、「うん。良かった」と納得して、
「色々回りくどい事しちゃって、迷惑かけてごめんね」
右川に比べりゃ迷惑のうちには入らない。
こういう時、思うのだ。
桂木といい阿木といい、常識観念のあるやつがホイホイと右川に取り付く。
あいつには常識の欠片もないのに何で?と、そこが不思議でしょうがない。
そう言えば、山下さんも。
ひょっとすると、俺もその一人じゃないかと、疑う事さえあるけど。
桂木は、右川の私物を全て整えた。「あんまり甘やかすなって」と思わず説教したくなる。
「って言われても……ちょっとだけ。あたしが書記になれて、こうやって沢村と話せるのは、右川のおかげだからさ」
これだよ。
それは分かるけど。
だからと言って。
まるで俺も同罪だと言わんばかりに、「でしょ?」と、にっこり笑われても。
4時を回って、桂木と2人、生徒会室を出た。
夕方には、全然早い。つい最近まで、5時を過ぎても帰れる日は無かった。
たった1時間早いだけで、まるで休日を迎えるように浮かれた気分になる。
水場を通りがかった所で、巨大な防具を担いだ剣道部と遭遇した。桂木と居る所を主将男子に見つけられ、冷やかされると思ったら、静かに笑って受け入れられて……それもどうかと思う。
「今日は右川会長が下見に来たよ。ずいぶん武道場の周りを見てたけど。異常ありません、ってさ。警備もしてくれるの?今年の生徒会は」
剣道部主将の目は笑っている。ていうか、こちらをイジっている。
「んなワケねーだろ」
警備という名の元、アイツはお宝探し。学校中を漁り、恥を晒しているのだ。
剣道部主将は、俺とは中学から一緒である。
交番勤めの父親を持ち、穏やかで真面目な性格。成績優秀。型にはめたような坊主頭に、どことなく愛嬌のある二重の目元が特徴的だ。その優しい物腰は、右川のような図々しいヤツでさえ、追い払う事などできないタイプ。
だからそこに、つけ込んでいるのだ。あのチビは!
「あのさ。まともに相手にしなくていいから。今度来たら追い払ってくれよ」
「そんなこと言ったって」
「会長さん、次は弓道部だとかで。張り切ってましたね」と、横から後輩がやって来た。
「レベル5の武器がどうとかこうとか」
宝とか武器とか、学校を狩り場に見立てて遊んでるとしか思えない。
「竹刀は脆くてレベル低い、ってダメ出しされちゃったよ。凹むワ」
「あ、でも先輩、防具は意外とレベル高かったみたいです」
「そうなの?どこがって?」
「主将……」
思わず、その肩をポンと叩いた。バカバカしい。てゆうか、真に受けないでくれ。落ち込む事じゃないだろう。(喜ぶ事でもないゾ。)
お宝探しを止めさせるべく1度ガツンと説教する必要があるかもしれない。
桂木と2人、中庭を通りがかると、掲示板にはまたしても相々傘。
〝せとかい&スイソー〟の落書きがあった。全く!誰だか知らないけど。
「本当しつこいな」
俺はいつものように掲示板から取り外して、クシャクシャに丸めた。
「あたし、嫌な事考えちゃった」
聞いて聞いて。
と、桂木は目で訴えて来るので、仕方なくその先を促した所、
「仕事サボるために、右川が自分で落書きして、事件をでっち上げた……つまり、自作自演」
ギョッとした。
1番ありえると思った事はもちろんだが、これだから〝女子の仲良し〟は信用できない。
確かに、あいつは目的の為なら何でも利用する。
自作自演が事実かどうかは別として、この落書きに都合よく乗っかり、あまつさえ犯人探しという名目を利用して〝お宝探し〟。
雑用から逃げ出して、探し歩き、うっかり金でも見つかれば、一石三鳥。
いや待てよ。この所は雑用も前向きでサボってないんだけど。
……?