God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
1万円
雨の中。
それも授業中。
ここを通りがかる輩は誰もいない。
居たとすれば、それは、良からぬ事を企む連中である。
お呼び出しとか、カツアゲとか、濃厚ラブラブとか……お馴染み、校舎北の裏門であった。
いつも静かで、淀んだ場所。雨がまた少し強くなって、ますます淀んだ。
右川は何やら疑う様子でありながらも、静かに、俺の後を付いて来る。
そこから、もう、おかしい。思えば、おかしいと感じる要素はいくつもあった。
これ以上、濡れたくない。
直球で行く。
「さっき、バドの女子が来てさ」
「うげ……」
「預かったよな」
「……うん」
「は?聞こえなーい」
「うんっ」
右川は恐る恐る、ゆっくりと顔を上げて、
「あ……預かっ、た……よ」
右川は俯いて上目遣いに俺を見た。
この様子は罪悪感なのか。それともバレてしまったという残念なのか。
預かったと、事実は聞けた。
だが、そう言ったきり、そこから何も聞こえてこない。
言い訳も、弁解も、肝心の謝罪も。
右川は、絶えず頭をゆらゆら揺らして、フードの中で、忙しく目線を動かしながら、どう言って逃げ出そうか、何をいって誤魔化そうか、まだそんな事を企んでいるように見える。
往生際が悪い。
「右川会長。俺は議長。執行部の一員。なのに、何の報告も聞いてない」
俺は右手を突き出した。
「出せ」
右川は、ひょいと手を重ねる。テヘ♪と笑った。
俺は一気に血が上った。
「おまえ、どうかしてんじゃねーか!」
その手を弾いて、全力で叩き返す。
修学旅行で財布を忘れても、仲間に貸してくれとさえ言えなかった……おまえはあの気高さを忘れたのか。
右川は、しばらく黙りこくった。
不貞腐れているとも違う。だが、反省しているとも見えなかった。
「……あの、そのー」と、何やらまだ必死で言い逃れを考えている。
「だからそのうち渡そうかと、思ってさ」
「それで簡単に後始末が済むと思ってんのか」
「そりゃ、見つかれば」
「それで宝探しか」
「そそ。お宝探し♪」
「おまえそれマジで言ってんの」
「そりゃマジ見つかればいいなーって」
「そういう問題じゃないだろ!」
全てがお笑い。
超ウケる。
それで何でも最後まで冗談で突き通せると思ったら大間違いだ。
〝泥棒チビ〟
「おまえは、山下さんみたいな立派な大人に、ふさわしくない」
そう言った時、小さな体が震えた。雨の寒さか、遅れてやってきた罪悪感か。
さすがに悪い事だという自覚はあるだろう。そうでないと困る。人間として最高に歪んでいる。
右川は、いつものように、何も言い返して来なかった。
俺だけが一方的に怒るだけで。
罪悪感は、俺側にも襲う。
さすがに、ちょっと言い過ぎたか。
「沢村。ごめん。悪かった。さーせん。……ぢゃなくて、すみません」
水滴かもしれない。それは判別がつかないけれど、雨に打たれて濡れながら、右川の表情は、それは泣いているようにも見える。出来心とはいえ、必死で挽回しよう右川なりに頑張っていたし……いや、騙されてどうする!
濡れていると言えば、レインコートの無い俺の方が濡れている。
泣きたいのもこっちの方だ。
泥棒は泥棒。悪い事は、悪い。
生徒会執行部のツラ汚し。阿木達にも、顔向けできないだろう。
「あのさ、今は手元に無いけど、明日絶対持ってくるから」
「そうか。誰かに泣き付くのか」
「うぐ……」
おまえは的外れだ。俺が求めたのはそういう事じゃない。
何も物を言わなくなった白い塊を1人残し、俺はその場を離れた。
1万円。
1万円。
1万円。
どうする、1万円。
それも授業中。
ここを通りがかる輩は誰もいない。
居たとすれば、それは、良からぬ事を企む連中である。
お呼び出しとか、カツアゲとか、濃厚ラブラブとか……お馴染み、校舎北の裏門であった。
いつも静かで、淀んだ場所。雨がまた少し強くなって、ますます淀んだ。
右川は何やら疑う様子でありながらも、静かに、俺の後を付いて来る。
そこから、もう、おかしい。思えば、おかしいと感じる要素はいくつもあった。
これ以上、濡れたくない。
直球で行く。
「さっき、バドの女子が来てさ」
「うげ……」
「預かったよな」
「……うん」
「は?聞こえなーい」
「うんっ」
右川は恐る恐る、ゆっくりと顔を上げて、
「あ……預かっ、た……よ」
右川は俯いて上目遣いに俺を見た。
この様子は罪悪感なのか。それともバレてしまったという残念なのか。
預かったと、事実は聞けた。
だが、そう言ったきり、そこから何も聞こえてこない。
言い訳も、弁解も、肝心の謝罪も。
右川は、絶えず頭をゆらゆら揺らして、フードの中で、忙しく目線を動かしながら、どう言って逃げ出そうか、何をいって誤魔化そうか、まだそんな事を企んでいるように見える。
往生際が悪い。
「右川会長。俺は議長。執行部の一員。なのに、何の報告も聞いてない」
俺は右手を突き出した。
「出せ」
右川は、ひょいと手を重ねる。テヘ♪と笑った。
俺は一気に血が上った。
「おまえ、どうかしてんじゃねーか!」
その手を弾いて、全力で叩き返す。
修学旅行で財布を忘れても、仲間に貸してくれとさえ言えなかった……おまえはあの気高さを忘れたのか。
右川は、しばらく黙りこくった。
不貞腐れているとも違う。だが、反省しているとも見えなかった。
「……あの、そのー」と、何やらまだ必死で言い逃れを考えている。
「だからそのうち渡そうかと、思ってさ」
「それで簡単に後始末が済むと思ってんのか」
「そりゃ、見つかれば」
「それで宝探しか」
「そそ。お宝探し♪」
「おまえそれマジで言ってんの」
「そりゃマジ見つかればいいなーって」
「そういう問題じゃないだろ!」
全てがお笑い。
超ウケる。
それで何でも最後まで冗談で突き通せると思ったら大間違いだ。
〝泥棒チビ〟
「おまえは、山下さんみたいな立派な大人に、ふさわしくない」
そう言った時、小さな体が震えた。雨の寒さか、遅れてやってきた罪悪感か。
さすがに悪い事だという自覚はあるだろう。そうでないと困る。人間として最高に歪んでいる。
右川は、いつものように、何も言い返して来なかった。
俺だけが一方的に怒るだけで。
罪悪感は、俺側にも襲う。
さすがに、ちょっと言い過ぎたか。
「沢村。ごめん。悪かった。さーせん。……ぢゃなくて、すみません」
水滴かもしれない。それは判別がつかないけれど、雨に打たれて濡れながら、右川の表情は、それは泣いているようにも見える。出来心とはいえ、必死で挽回しよう右川なりに頑張っていたし……いや、騙されてどうする!
濡れていると言えば、レインコートの無い俺の方が濡れている。
泣きたいのもこっちの方だ。
泥棒は泥棒。悪い事は、悪い。
生徒会執行部のツラ汚し。阿木達にも、顔向けできないだろう。
「あのさ、今は手元に無いけど、明日絶対持ってくるから」
「そうか。誰かに泣き付くのか」
「うぐ……」
おまえは的外れだ。俺が求めたのはそういう事じゃない。
何も物を言わなくなった白い塊を1人残し、俺はその場を離れた。
1万円。
1万円。
1万円。
どうする、1万円。