God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
手を叩く
「なんだって!?」
「生徒会の横暴じゃないかっ!」
「どうなってんだ!狂ったか!」
「こうなったらリコールだ!チビを叩き潰せ!」「辞めちまえ!ボケがぁ!」「ママに言うからねっ!」「山に埋めるぞ!ゴラァ!」「金出せ!すぐ出せ!きっちり出せ!」「おまえは馬鹿かッ!?」
吹奏楽部から、非難囂々、ヤジが飛んだ。
重森をひいきにする部も、それに連動して従うように声をあげる。
バスケ部が出張る隙間も無いほど、吹奏楽の怒号ハーモニーは、ドロドロと轟いた。
「右川、まて。落ち着けっ」
「大丈夫。仕事すっからさ。ちゃんとちゃんとちゃんとね~」
「いや、ここは何もしなくていい!」
会長らしく仕事をしろと、今まで散々言ってきた。
俺が合図したら余計な事をするなと、釘を刺して置けばよかった。
「予算は学校まで持っていくんだぞ。軽はずみな事言うな。とにかく今は分が悪いから」
右川は、俺が止めるのもきかず、座席に向かって階段を駆け上がると、
『今年の生徒会は、予算をお金で決めませーん』
何をワケわかんない事を。
『金の問題じゃなーい!!!』
マイクに襲いかからんばかりの勢い、ひどいハウリングに周りはみんな耳を塞いだ。
『と、沢村議長は、さっきあたしに言ったので』
途端、そこら中の視線が俺に集中する。
何だそれ。この期に及んで、俺のせいか。
「何フカしてんだよ、議長のくせに!」「じゃ何で決めんだよ!お情けか!」「議長の女の好みか!?」「だったら駄女子に貢がせろや!」「バスケを潰して献上しろぉ!」
いきり立つ桂木を、寸出の所で阿木が止めた。
怒号渦巻く予算委員会。
右川と重森は、一直線に向き合った。階段1つ分の段差のお陰もあってか、2人の頭が同じ位置に並んでいる。だからといって、ウケてる場合じゃない。
『吹奏楽、かなり部員が減ったね。ていうか、みんな逃げ出したよね』
「だから、もっと金が要るって言ってんだよ」
『あんた気付いてないの?だーかーらー、音のバランスが悪くなって、聞いてて気持ち悪いんだよっ!』
重森はグッと詰まった。
驚くのが、周りの応援部員も同様、一斉に黙り込んだ事だ。まるで誰も居ないみたいに、会場は静まりかえる。それほど……右川はド真ん中を突いた。
「一応、芸術やってんでしょ?そんな事にも気が付かないの?感性どうなってんの?」
おえぇぇぇぇぇぇー。
フザけて、えづいた右川が、「ゲホゲホッゴゴッ」と、マジでブチまけそうな勢い、咳き込み始めると、「どういう命懸けコントだよッ」とばかりに、バスケ部は元より、運動系辺りは、もう遠慮なくクスクスと笑い出した。
次第にハウリングは消え、咳も治まり、右川の声はサラサラと流れる。
『弓道部は確かに人数少ないけど、卒業した先輩がマメに通って鍛えてるじゃん。金だけ持ってくるスイソーOBとは訳が違うよ。確かに今年コケたらヤバいから、必死で後輩を育てると思うし。実績があれば、部員だって増えるでしょ』
俺は眩暈がした。
部活を巡るお宝探しが、今はまた別の一面を照らし出す。
『今年の生徒会は、その将来性というアビリティに予算を付けまーす』
まるで、新会長の所信表明のようだ。
毎年、予算を決める基準は去年までの決算を基にする。それ以上でも以下でも無い。そこへ、今年の会長は〝将来性〟という要素を賦与した。
一石を投じた……。
右川は、『吹奏楽に何かあるの?』と問い掛ける。
まるで、本気でそれを知りたいと望むみたいに。
『部員が逃げる。部費が集まらない。ここで予算はゼロ。何が言いたいか分かるかな』
カネ森くん?と、マイクを重森に向けた。当然と言うか、重森は沈黙したまま。
『そろそろ危機感、感じろっつーの!』
右川は、マイクを重森に投げつけた。
その額にぶつかって、ゴン!と鈍い音がする。
『イベント辞めろ。銅像捨てろ。地元をチョロチョロすんな。ダサいから恥ずい。マジで見たくない。悔しかったら1つぐらいデカいコンクール取ってこいやぁ!』
何の音も聞こえなくなった。
かつてないほどの、静寂が予算委員会を包み込む。
右川の言う事は、誰もが知る。
だが公の場、ここまで屈辱的に晒される事は……今まで無かった。
我が吹奏楽部は、小さな枠でコンクールでは、そこそこ。
映画とかアニメとか、そんな一過性のブームに乗って、イベントは次から次へと決める。当然のように補助金をゲットして、チャリティという名のもとに旅行気分で遠征。
評判の良さを引きずって、地元イベント参加を最優先。
これ幸いと、さらに大きな舞台で試される事を避けてきた。
痛い所をズブズブと突かれて、ぐうの音も出ず、重森は立ちすくんだまま震えている。何より、応援する筈の部員が沈黙している、という有り様が、吹奏楽部、現状の悲惨さを物語ってしまった。
沈黙が、静寂が、永ければ永いほど、屈辱は深まる。
どれだけ時間が経っただろう。「詰んだわね」と、阿木が鼻で笑った。
俺は、手を叩く。
ゆっくりと、手を叩く。
沈黙を静寂を、そこら中を破る拍手を、舞台上の主役の後ろに甘んじて、俺が引き受けてやる。仲間のありがたみと罪悪感を痛いほど感じろ。
右川は、ゆっくりと後ろを振り返った。
俺はその目線を避けて。目を合わせないように横を向いて……俺だって天邪鬼になってやる。ただただ、ひたすら、地味に、俺は手を叩き続けた。
そのうち阿木・桂木を始めとする執行部も拍手に加わり、それをきっかけに、「ハイ!ハイ!ハイ!」と喰い付いた永田ごとバスケ部を取り込み、運動部全体をうねらせ、文化系を呑み込んで、委員会中に広がった。
長く長く、途切れる事無く、承認の拍手は続く。
誰よりも先に手を叩き始めた俺は、誰よりも真っ先に手を叩くのを止めた。
それでもまだまだ会長コールは鳴りやまず……右川は得意げにそこら中を踊り回り、「げほっ。げほっ」と愛想(というか菌)を振り撒いた。苦虫を噛み潰したような顔の重森が、静かに部屋を出て行く。仲間が慌てて、ゾロゾロとその後に続いた。
そして無事に(?)委員会を終えて、生徒会室に戻る。
それは右川が、「じゃ、帰るね♪」とゲホゲホやりながら、さっさと帰っていった後の事。
さっそく吹奏楽の部員が雁首揃えてやって来た。
さっきまで会場で野次を飛ばしてくれたヤツら。まさか、女装してるヤツが居たとは気が付かなかったが。ウケてる場合じゃないぞ、生徒会執行部。
「ちょっと!いくらなんでもお金もらえないなんて困るよ!」
「こんなの横暴じゃないか。とにかく取り消してくれ!」
「どういう公開処刑だよっ!おまえ議長だろ。会長を説得しろよっ」
俺達は、やってくるやつらに執行部総出で頭下げてとりなす始末である。
「許してあげるから、2倍でね」
んなワケねーだろ。
苦情は一応受け入れてやるが、納得できない部分は戦う覚悟だ。
右川のヤツ、自分で蒔いた種を他人に丸投げ。
いくら寛容な俺でも受け入れる事は出来ない。
「ほんとに予算ゼロなんですか」
真木は怯えていた。また重森あたり、何やら突っ込まれたのかもしれない。
「いや、去年と同じで出そう」
心配するな、と(倒れないように加減して)その肩を叩いた。
予算ゼロなんて、俺はそこまで悪魔じゃないって。
「そういうの勝手にやっちゃって、こびと先輩、怒りませんか?」
「平気だろ」
そんなにいやなら取り消しゃいいじゃん♪とか言うに違いない。
そんな決まりは無いんだし。
俺達は、静かに後始末に取りかかった。
吹奏楽は、当初の予定通りの金額を修正に入れた。
「じゃ、先生に提出用の清書、やろっか」
桂木が愛想よく真木の肩をポンと叩くと、お約束、真木が、「うあ!」と、その場に崩れる。
「まるであたしが怪力みたいじゃん。そんなに強く叩いてないのに」
「す、すみません。今のは、僕が勝手にバランスを失って」
「被害者意識が強過ぎるんだよ。なんかあたしがイジメてるみたい」
「す、すみません」
そこからもう何も言えず、真木は縮こまったまま、俯く。
桂木と目が合った。
何かを飲み込むみたいに1つ、こくんと頷いて、
「運動系。あたしが5ページまで。真木くんはそこから10ページ。終わったあたしがチェックしながら追いつくからね。追い抜かれたら張り倒すよ」
真木は大慌てで作業に取り掛かった。
その様子を眺めながら桂木と顔を見合わせて……大丈夫だろう。
真木は、桂木の敵ではない。それを受け入れて桂木も戦うのだ。自分の中のバスケ部根性と。
「真木くんはコキ使う事にした。使えるプリンスにしてあげるね」
真木は少々怯えながらも、「それでも僕にとって、ここが1番居心地がいいです」と、少女のように、はにかんだ。
名実共に〝可愛い後輩〟か。俺は親指を突き出して、その行方を祈る。
(しかない。)
そこで浅枝が何やらスマホを覗きながら、「あっ!」と声を上げた。
「落書きの犯人が捕まりましたっ!新聞部より入電!掲示板前、犯人を現行犯逮捕!」
それを聞いて(バカバカしいわね……と、脇目も振らず電卓を弾く阿木を覗いた)4人で中庭に向かった。
行けば、なんと、例の、あの3人組BL研究会が掲示板前、新聞部の3年部長に怒られて凹んでいる。と思ったら、やって来た俺を見て「あっ!」と大喜びで走り寄った。
「待ってましたっ!最新号ですっ!」
手早く、俺と真木に冊子を渡す。
「こら!」と、新聞部が止めるのも聞かず、ピューッと逃げ出した。
逃げ足は速い。
〝センパイと僕~もふもふしちゃう、75日〟
そして、懲りてない。
「やっぱこれ真木くんがモデルだったんですよ。ほら」
浅枝が嬉しそうに、半ばア然としている真木からもぎ取った冊子を開いて見せた。
するとそこには見開き。
俺と真木が、実名で堂々と×××に×××を、×××して。
桂木も興味深々で覗きこんで、「これって、沢村も居たんだね」とは、地味すぎて分からなかったとでも言うのか。
〝せとかい&スイソーの相々傘〟
あれは、俺と真木の事だったのか。
知らなかった。そして、知りたくなかった。
〝おまえら、ツブすぞ〟というのが、俺の決めゼリフらしい。
それは、真木を手込めにしたバスケ部に向けて、沢村議長が放つ最高にカッコいい台詞(そう書いてあるんだから!)と言う事で、使われている。
たまに使う、〝大丈夫。後は俺がやっとくから〟とは、これまた濃厚なシーンに、漏れなく挿入されていた。
「似てるって言っても髪型だけだから」
桂木だけは顔色を窺ってくれるが、実名描写はどう説明するのか。
横から浅枝がしゃしゃり出て、「でも、ちゃんと取材してますよ。髪型もそっくりですけど、おっぱいが好きな所とか」と、いつになく容赦ない。
「浅枝。お菓子没収」と俺もいつになく凶悪になる。
「うわぁ。僕はさっそく、こびと先輩に報告を」
「するな!」
げほ。げほ。げほ。
地味に……伝染ったぢゃないか!
「生徒会の横暴じゃないかっ!」
「どうなってんだ!狂ったか!」
「こうなったらリコールだ!チビを叩き潰せ!」「辞めちまえ!ボケがぁ!」「ママに言うからねっ!」「山に埋めるぞ!ゴラァ!」「金出せ!すぐ出せ!きっちり出せ!」「おまえは馬鹿かッ!?」
吹奏楽部から、非難囂々、ヤジが飛んだ。
重森をひいきにする部も、それに連動して従うように声をあげる。
バスケ部が出張る隙間も無いほど、吹奏楽の怒号ハーモニーは、ドロドロと轟いた。
「右川、まて。落ち着けっ」
「大丈夫。仕事すっからさ。ちゃんとちゃんとちゃんとね~」
「いや、ここは何もしなくていい!」
会長らしく仕事をしろと、今まで散々言ってきた。
俺が合図したら余計な事をするなと、釘を刺して置けばよかった。
「予算は学校まで持っていくんだぞ。軽はずみな事言うな。とにかく今は分が悪いから」
右川は、俺が止めるのもきかず、座席に向かって階段を駆け上がると、
『今年の生徒会は、予算をお金で決めませーん』
何をワケわかんない事を。
『金の問題じゃなーい!!!』
マイクに襲いかからんばかりの勢い、ひどいハウリングに周りはみんな耳を塞いだ。
『と、沢村議長は、さっきあたしに言ったので』
途端、そこら中の視線が俺に集中する。
何だそれ。この期に及んで、俺のせいか。
「何フカしてんだよ、議長のくせに!」「じゃ何で決めんだよ!お情けか!」「議長の女の好みか!?」「だったら駄女子に貢がせろや!」「バスケを潰して献上しろぉ!」
いきり立つ桂木を、寸出の所で阿木が止めた。
怒号渦巻く予算委員会。
右川と重森は、一直線に向き合った。階段1つ分の段差のお陰もあってか、2人の頭が同じ位置に並んでいる。だからといって、ウケてる場合じゃない。
『吹奏楽、かなり部員が減ったね。ていうか、みんな逃げ出したよね』
「だから、もっと金が要るって言ってんだよ」
『あんた気付いてないの?だーかーらー、音のバランスが悪くなって、聞いてて気持ち悪いんだよっ!』
重森はグッと詰まった。
驚くのが、周りの応援部員も同様、一斉に黙り込んだ事だ。まるで誰も居ないみたいに、会場は静まりかえる。それほど……右川はド真ん中を突いた。
「一応、芸術やってんでしょ?そんな事にも気が付かないの?感性どうなってんの?」
おえぇぇぇぇぇぇー。
フザけて、えづいた右川が、「ゲホゲホッゴゴッ」と、マジでブチまけそうな勢い、咳き込み始めると、「どういう命懸けコントだよッ」とばかりに、バスケ部は元より、運動系辺りは、もう遠慮なくクスクスと笑い出した。
次第にハウリングは消え、咳も治まり、右川の声はサラサラと流れる。
『弓道部は確かに人数少ないけど、卒業した先輩がマメに通って鍛えてるじゃん。金だけ持ってくるスイソーOBとは訳が違うよ。確かに今年コケたらヤバいから、必死で後輩を育てると思うし。実績があれば、部員だって増えるでしょ』
俺は眩暈がした。
部活を巡るお宝探しが、今はまた別の一面を照らし出す。
『今年の生徒会は、その将来性というアビリティに予算を付けまーす』
まるで、新会長の所信表明のようだ。
毎年、予算を決める基準は去年までの決算を基にする。それ以上でも以下でも無い。そこへ、今年の会長は〝将来性〟という要素を賦与した。
一石を投じた……。
右川は、『吹奏楽に何かあるの?』と問い掛ける。
まるで、本気でそれを知りたいと望むみたいに。
『部員が逃げる。部費が集まらない。ここで予算はゼロ。何が言いたいか分かるかな』
カネ森くん?と、マイクを重森に向けた。当然と言うか、重森は沈黙したまま。
『そろそろ危機感、感じろっつーの!』
右川は、マイクを重森に投げつけた。
その額にぶつかって、ゴン!と鈍い音がする。
『イベント辞めろ。銅像捨てろ。地元をチョロチョロすんな。ダサいから恥ずい。マジで見たくない。悔しかったら1つぐらいデカいコンクール取ってこいやぁ!』
何の音も聞こえなくなった。
かつてないほどの、静寂が予算委員会を包み込む。
右川の言う事は、誰もが知る。
だが公の場、ここまで屈辱的に晒される事は……今まで無かった。
我が吹奏楽部は、小さな枠でコンクールでは、そこそこ。
映画とかアニメとか、そんな一過性のブームに乗って、イベントは次から次へと決める。当然のように補助金をゲットして、チャリティという名のもとに旅行気分で遠征。
評判の良さを引きずって、地元イベント参加を最優先。
これ幸いと、さらに大きな舞台で試される事を避けてきた。
痛い所をズブズブと突かれて、ぐうの音も出ず、重森は立ちすくんだまま震えている。何より、応援する筈の部員が沈黙している、という有り様が、吹奏楽部、現状の悲惨さを物語ってしまった。
沈黙が、静寂が、永ければ永いほど、屈辱は深まる。
どれだけ時間が経っただろう。「詰んだわね」と、阿木が鼻で笑った。
俺は、手を叩く。
ゆっくりと、手を叩く。
沈黙を静寂を、そこら中を破る拍手を、舞台上の主役の後ろに甘んじて、俺が引き受けてやる。仲間のありがたみと罪悪感を痛いほど感じろ。
右川は、ゆっくりと後ろを振り返った。
俺はその目線を避けて。目を合わせないように横を向いて……俺だって天邪鬼になってやる。ただただ、ひたすら、地味に、俺は手を叩き続けた。
そのうち阿木・桂木を始めとする執行部も拍手に加わり、それをきっかけに、「ハイ!ハイ!ハイ!」と喰い付いた永田ごとバスケ部を取り込み、運動部全体をうねらせ、文化系を呑み込んで、委員会中に広がった。
長く長く、途切れる事無く、承認の拍手は続く。
誰よりも先に手を叩き始めた俺は、誰よりも真っ先に手を叩くのを止めた。
それでもまだまだ会長コールは鳴りやまず……右川は得意げにそこら中を踊り回り、「げほっ。げほっ」と愛想(というか菌)を振り撒いた。苦虫を噛み潰したような顔の重森が、静かに部屋を出て行く。仲間が慌てて、ゾロゾロとその後に続いた。
そして無事に(?)委員会を終えて、生徒会室に戻る。
それは右川が、「じゃ、帰るね♪」とゲホゲホやりながら、さっさと帰っていった後の事。
さっそく吹奏楽の部員が雁首揃えてやって来た。
さっきまで会場で野次を飛ばしてくれたヤツら。まさか、女装してるヤツが居たとは気が付かなかったが。ウケてる場合じゃないぞ、生徒会執行部。
「ちょっと!いくらなんでもお金もらえないなんて困るよ!」
「こんなの横暴じゃないか。とにかく取り消してくれ!」
「どういう公開処刑だよっ!おまえ議長だろ。会長を説得しろよっ」
俺達は、やってくるやつらに執行部総出で頭下げてとりなす始末である。
「許してあげるから、2倍でね」
んなワケねーだろ。
苦情は一応受け入れてやるが、納得できない部分は戦う覚悟だ。
右川のヤツ、自分で蒔いた種を他人に丸投げ。
いくら寛容な俺でも受け入れる事は出来ない。
「ほんとに予算ゼロなんですか」
真木は怯えていた。また重森あたり、何やら突っ込まれたのかもしれない。
「いや、去年と同じで出そう」
心配するな、と(倒れないように加減して)その肩を叩いた。
予算ゼロなんて、俺はそこまで悪魔じゃないって。
「そういうの勝手にやっちゃって、こびと先輩、怒りませんか?」
「平気だろ」
そんなにいやなら取り消しゃいいじゃん♪とか言うに違いない。
そんな決まりは無いんだし。
俺達は、静かに後始末に取りかかった。
吹奏楽は、当初の予定通りの金額を修正に入れた。
「じゃ、先生に提出用の清書、やろっか」
桂木が愛想よく真木の肩をポンと叩くと、お約束、真木が、「うあ!」と、その場に崩れる。
「まるであたしが怪力みたいじゃん。そんなに強く叩いてないのに」
「す、すみません。今のは、僕が勝手にバランスを失って」
「被害者意識が強過ぎるんだよ。なんかあたしがイジメてるみたい」
「す、すみません」
そこからもう何も言えず、真木は縮こまったまま、俯く。
桂木と目が合った。
何かを飲み込むみたいに1つ、こくんと頷いて、
「運動系。あたしが5ページまで。真木くんはそこから10ページ。終わったあたしがチェックしながら追いつくからね。追い抜かれたら張り倒すよ」
真木は大慌てで作業に取り掛かった。
その様子を眺めながら桂木と顔を見合わせて……大丈夫だろう。
真木は、桂木の敵ではない。それを受け入れて桂木も戦うのだ。自分の中のバスケ部根性と。
「真木くんはコキ使う事にした。使えるプリンスにしてあげるね」
真木は少々怯えながらも、「それでも僕にとって、ここが1番居心地がいいです」と、少女のように、はにかんだ。
名実共に〝可愛い後輩〟か。俺は親指を突き出して、その行方を祈る。
(しかない。)
そこで浅枝が何やらスマホを覗きながら、「あっ!」と声を上げた。
「落書きの犯人が捕まりましたっ!新聞部より入電!掲示板前、犯人を現行犯逮捕!」
それを聞いて(バカバカしいわね……と、脇目も振らず電卓を弾く阿木を覗いた)4人で中庭に向かった。
行けば、なんと、例の、あの3人組BL研究会が掲示板前、新聞部の3年部長に怒られて凹んでいる。と思ったら、やって来た俺を見て「あっ!」と大喜びで走り寄った。
「待ってましたっ!最新号ですっ!」
手早く、俺と真木に冊子を渡す。
「こら!」と、新聞部が止めるのも聞かず、ピューッと逃げ出した。
逃げ足は速い。
〝センパイと僕~もふもふしちゃう、75日〟
そして、懲りてない。
「やっぱこれ真木くんがモデルだったんですよ。ほら」
浅枝が嬉しそうに、半ばア然としている真木からもぎ取った冊子を開いて見せた。
するとそこには見開き。
俺と真木が、実名で堂々と×××に×××を、×××して。
桂木も興味深々で覗きこんで、「これって、沢村も居たんだね」とは、地味すぎて分からなかったとでも言うのか。
〝せとかい&スイソーの相々傘〟
あれは、俺と真木の事だったのか。
知らなかった。そして、知りたくなかった。
〝おまえら、ツブすぞ〟というのが、俺の決めゼリフらしい。
それは、真木を手込めにしたバスケ部に向けて、沢村議長が放つ最高にカッコいい台詞(そう書いてあるんだから!)と言う事で、使われている。
たまに使う、〝大丈夫。後は俺がやっとくから〟とは、これまた濃厚なシーンに、漏れなく挿入されていた。
「似てるって言っても髪型だけだから」
桂木だけは顔色を窺ってくれるが、実名描写はどう説明するのか。
横から浅枝がしゃしゃり出て、「でも、ちゃんと取材してますよ。髪型もそっくりですけど、おっぱいが好きな所とか」と、いつになく容赦ない。
「浅枝。お菓子没収」と俺もいつになく凶悪になる。
「うわぁ。僕はさっそく、こびと先輩に報告を」
「するな!」
げほ。げほ。げほ。
地味に……伝染ったぢゃないか!