God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
英語の課題かと思ったら。
〝進路指導個人面談について〟
「あー……」
まだ。
「今日のお昼までだよ。あたしも、これからなんだ」
この時点で、親は、まだ無関係。文字通り〝個人〟で面談。
夏休み前に親を巻き込んだ三者面談が行われるらしいが、担任として、それまでに希望とか妥協とか、この際まとめておきたいという事だろう。
「沢村って、どうするの?進学だよね」と訊かれて頷いた。
「地元の。あの駅前からバスの」
俺が全部を言い終わるより早く、すかさず桂木は、
「わかった。マクドナルドだね」
イタズラっぽい笑みを浮かべた。「……かもな」
ここからそう遠くない地域に、地元ではお馴染みの私大があって、双浜の卒業生は毎年大体がその大学へ流れている。推薦枠もかなりあるので、地元の受験生にはとても心強い。
なので、「みんな、今さらワザワザ訊かれなくても、大体もう決まってるもんね」と、桂木の言う通りであった。
桂木はサラサラと紙に何やら書き、何故かそこで俺の方をチラッと見て。
???
桂木は、不可解な様子に何の説明も残さず、「あたし、もう出してこよ」と教室を出て行った。
こう言う時、思うのだ。
それが何かは分からない。だが、受け流しては良からぬ事とアラームが鳴り始める。桂木は、何が言いたかったのか。俺にはどうしても分からなかった。
あれから……微妙に曖昧に〝公認〟となっている俺達だが、当然と言うか、お昼は別々に過ごしている。バスケ仲間、身内仲間、野次馬、そこら中から、「あれ?一緒に食べないの?」と、イジられるのだが、桂木は、「いつもヨッチ達と食べてるから、お昼はいつもそこ」と部活仲間とお昼を共にする今日この頃であった。
あるいは……微妙に曖昧に〝公認〟という枠に強引に押し込められた俺をどこか気遣い、ズバリ遠慮しながら、距離を縮める様子を窺っているのかもしれない。
休憩時間など、桂木は逐一、側にやって来る。
だが、いつも、どこか遠慮がち。こっちの溜め息は日に日に、深くなる。本当に、俺は一体、どうすればいいんだろう。
5時間目が英語のリスニングで教室を移動になった。のっそり立ちあがって向かおうとすると、職員室から戻ってきた桂木に、「もう行く?」と声を掛けられた。「うん」
訊かれただけ。それに答えただけ。
誘われた訳でも何でもない。だが、周りは「ひょお~!」と、声を上げて、俺達2人を勝手にまとめて送り出してくれる。
こうして、なし崩しに決まるのか。これを受け入れて……というか、これは受け入れていいのかどうか。まずは、そこから。
ちょうど廊下に出た所で右川を見掛けた。見れば、いつもの大荷物。
リュックを担いで……一体、どこまで移動する気だろう。
そこに、「沢村くんからも何とか言ってよ」と、海川がやってきた。
「いや、俺を巻き込むなよ」
だが桂木が、「どうしたの」と自分から巻き込まれてしまう。
訊けば、右川は5時間目を早引けしようと、しているらしい。
「全然、元気じゃないか」
「元気だよ。だーかーらー、今日は、これからバイト探し♪」
「なんだそれ。要はサボリか」
「単位足りなかったら受験できないよ。いくら会長だからって」と、桂木。
「そうだよ。あんまり先生を困らせちゃダメだよ」と、海川。
2人とも、あくまでも良心的に説得しようと試みるのだが、
「それで退学ならそれでもいいや。学校辞めて、すぐ働くんだぁ」
全く響いていない。いまだに学校を辞めるとか、平気で言える事にも驚く。
まー、いつもの事だ。口で言っても無駄。
まず俺がその首根っこを掴むと、「うぎ!」と、右川は硬直。
そのままツマみ上げたら、まー、軽い軽い。
「離せっ!アタリマエっ!ぐるじいーっ!しむゥ~」
「ちょ、ちょっと、沢村ってば、そこまでは」
「そ、そうだよ。沢村くん、それは痛いよ。いくら何でも」
遠慮がちに止めに入る2人を尻目に、
「先生を困らせんな。成績が酷過ぎて、出席日数もツブれたら、おまえの内申に書く事が無くなるだろ」
それでも右川はジタバタと無駄に暴れた。
そこで急に力が抜けたかと思うと、
「うっ。吐ぎぞう」
相変わらず、トコトンか。
俺は、その病状を心配する桂木のように優しくもないし、吐きそうと聞いて一歩下がった海川のように素直でもないぞ。その嘘つきモジャモジャ頭に、まずは一撃パコンと食らわせた。
右川は両腕でアタマを抱えると、
「アタマ痛い痛い痛いっ!マジでっ!出血っ!保健室に行くっ!連れてって、ミノリ!」
俺は再度チビをツマみ上げ、そのまま、ズルズルと引きずった。
(結果的にそうなった。)
「本当に痛いのっ!アタリマエに痛いんだからっ!」
暴れるせいで脱げたスニーカーを、こぼれた荷物を、海川と桂木が拾って後を付いてくる。
「離せ!あっちいけ!アタリマエが伝染る!助けてー!リヴァイ兵長ぉ~!」
とうとう虚構と現実の区別もつかなくなったか。
また急に力が抜けたかと思うと、「神サマぁー……」
はむはむふぉふぉひゃひゃザクザクえこえこ……両手を開いて、呪いの呪文を唱え始める。
結果、一緒になって俺達までもが好奇の目に晒される事となりにけり。
納得いかない。同じクラスじゃなければ、右川がサボろうが知りもしないし、無関係で居られたものを。
チャイムがすっかり鳴った後。だから俺達すっかり遅刻。
「俺らの内申に影響したらどうすんだよ。責任取れ」
教室が目前、うっかり力が緩んだ隙を狙って、右川がするりとスリ抜けた。
「沢村くんっ、右川が逃げちゃうよ!」
「待って!右川!戻って来なよって!」
「今フケたら、山下さんにチクるぞ!」
逃げ出した右川は、俺の1言で、ピクと動きを止めた。
聞こえてしまったからには無視もできない、か。
俺と逃げ出す方向を交互に眺め、やがて諦めた様子でトボトボと戻ってくる。
やがて俺達の前で立ち止まると、
「あれ?地震かな?」
俺は容赦なく、モジャモジャ頭を2回目、上からパコン!と叩き潰した。
右川が、下から恨めしそうに見上げる。
悔し泣きの、半泣きか。俺は騙されないぞ。
「全然揺れてないよ」と、これまた気を使った(ダマされた)海川が、「右川ぁ。ちゃんと授業は出ようよ。リスニングは試験でも大事なんだから」と、やっぱりムダな説得にかかる。
「痛い……マジで……頭と……心も……」
「だよね。分かる。でもとりあえず授業は出よ?座ってるだけでいいから」
んなワケねーだろ。
聞いてると、桂木は右川を甘やかすタイプらしい。
俺は力を緩める事無く、右川を引きずり、すっかり始まって大遅刻の授業へ飛び込んだ。
「これが終わったら帰るっ。本っ当に帰るからねっ!」
「うん。いーよいーよ。僕から松倉には言っておくから」
「ダメだよ。放課後は生徒会。会長の仕事、溜まってるよ?」
「うッ。お腹、痛たたたた……」
放課後も……再び、引きずる事になるのかよっ!
〝進路指導個人面談について〟
「あー……」
まだ。
「今日のお昼までだよ。あたしも、これからなんだ」
この時点で、親は、まだ無関係。文字通り〝個人〟で面談。
夏休み前に親を巻き込んだ三者面談が行われるらしいが、担任として、それまでに希望とか妥協とか、この際まとめておきたいという事だろう。
「沢村って、どうするの?進学だよね」と訊かれて頷いた。
「地元の。あの駅前からバスの」
俺が全部を言い終わるより早く、すかさず桂木は、
「わかった。マクドナルドだね」
イタズラっぽい笑みを浮かべた。「……かもな」
ここからそう遠くない地域に、地元ではお馴染みの私大があって、双浜の卒業生は毎年大体がその大学へ流れている。推薦枠もかなりあるので、地元の受験生にはとても心強い。
なので、「みんな、今さらワザワザ訊かれなくても、大体もう決まってるもんね」と、桂木の言う通りであった。
桂木はサラサラと紙に何やら書き、何故かそこで俺の方をチラッと見て。
???
桂木は、不可解な様子に何の説明も残さず、「あたし、もう出してこよ」と教室を出て行った。
こう言う時、思うのだ。
それが何かは分からない。だが、受け流しては良からぬ事とアラームが鳴り始める。桂木は、何が言いたかったのか。俺にはどうしても分からなかった。
あれから……微妙に曖昧に〝公認〟となっている俺達だが、当然と言うか、お昼は別々に過ごしている。バスケ仲間、身内仲間、野次馬、そこら中から、「あれ?一緒に食べないの?」と、イジられるのだが、桂木は、「いつもヨッチ達と食べてるから、お昼はいつもそこ」と部活仲間とお昼を共にする今日この頃であった。
あるいは……微妙に曖昧に〝公認〟という枠に強引に押し込められた俺をどこか気遣い、ズバリ遠慮しながら、距離を縮める様子を窺っているのかもしれない。
休憩時間など、桂木は逐一、側にやって来る。
だが、いつも、どこか遠慮がち。こっちの溜め息は日に日に、深くなる。本当に、俺は一体、どうすればいいんだろう。
5時間目が英語のリスニングで教室を移動になった。のっそり立ちあがって向かおうとすると、職員室から戻ってきた桂木に、「もう行く?」と声を掛けられた。「うん」
訊かれただけ。それに答えただけ。
誘われた訳でも何でもない。だが、周りは「ひょお~!」と、声を上げて、俺達2人を勝手にまとめて送り出してくれる。
こうして、なし崩しに決まるのか。これを受け入れて……というか、これは受け入れていいのかどうか。まずは、そこから。
ちょうど廊下に出た所で右川を見掛けた。見れば、いつもの大荷物。
リュックを担いで……一体、どこまで移動する気だろう。
そこに、「沢村くんからも何とか言ってよ」と、海川がやってきた。
「いや、俺を巻き込むなよ」
だが桂木が、「どうしたの」と自分から巻き込まれてしまう。
訊けば、右川は5時間目を早引けしようと、しているらしい。
「全然、元気じゃないか」
「元気だよ。だーかーらー、今日は、これからバイト探し♪」
「なんだそれ。要はサボリか」
「単位足りなかったら受験できないよ。いくら会長だからって」と、桂木。
「そうだよ。あんまり先生を困らせちゃダメだよ」と、海川。
2人とも、あくまでも良心的に説得しようと試みるのだが、
「それで退学ならそれでもいいや。学校辞めて、すぐ働くんだぁ」
全く響いていない。いまだに学校を辞めるとか、平気で言える事にも驚く。
まー、いつもの事だ。口で言っても無駄。
まず俺がその首根っこを掴むと、「うぎ!」と、右川は硬直。
そのままツマみ上げたら、まー、軽い軽い。
「離せっ!アタリマエっ!ぐるじいーっ!しむゥ~」
「ちょ、ちょっと、沢村ってば、そこまでは」
「そ、そうだよ。沢村くん、それは痛いよ。いくら何でも」
遠慮がちに止めに入る2人を尻目に、
「先生を困らせんな。成績が酷過ぎて、出席日数もツブれたら、おまえの内申に書く事が無くなるだろ」
それでも右川はジタバタと無駄に暴れた。
そこで急に力が抜けたかと思うと、
「うっ。吐ぎぞう」
相変わらず、トコトンか。
俺は、その病状を心配する桂木のように優しくもないし、吐きそうと聞いて一歩下がった海川のように素直でもないぞ。その嘘つきモジャモジャ頭に、まずは一撃パコンと食らわせた。
右川は両腕でアタマを抱えると、
「アタマ痛い痛い痛いっ!マジでっ!出血っ!保健室に行くっ!連れてって、ミノリ!」
俺は再度チビをツマみ上げ、そのまま、ズルズルと引きずった。
(結果的にそうなった。)
「本当に痛いのっ!アタリマエに痛いんだからっ!」
暴れるせいで脱げたスニーカーを、こぼれた荷物を、海川と桂木が拾って後を付いてくる。
「離せ!あっちいけ!アタリマエが伝染る!助けてー!リヴァイ兵長ぉ~!」
とうとう虚構と現実の区別もつかなくなったか。
また急に力が抜けたかと思うと、「神サマぁー……」
はむはむふぉふぉひゃひゃザクザクえこえこ……両手を開いて、呪いの呪文を唱え始める。
結果、一緒になって俺達までもが好奇の目に晒される事となりにけり。
納得いかない。同じクラスじゃなければ、右川がサボろうが知りもしないし、無関係で居られたものを。
チャイムがすっかり鳴った後。だから俺達すっかり遅刻。
「俺らの内申に影響したらどうすんだよ。責任取れ」
教室が目前、うっかり力が緩んだ隙を狙って、右川がするりとスリ抜けた。
「沢村くんっ、右川が逃げちゃうよ!」
「待って!右川!戻って来なよって!」
「今フケたら、山下さんにチクるぞ!」
逃げ出した右川は、俺の1言で、ピクと動きを止めた。
聞こえてしまったからには無視もできない、か。
俺と逃げ出す方向を交互に眺め、やがて諦めた様子でトボトボと戻ってくる。
やがて俺達の前で立ち止まると、
「あれ?地震かな?」
俺は容赦なく、モジャモジャ頭を2回目、上からパコン!と叩き潰した。
右川が、下から恨めしそうに見上げる。
悔し泣きの、半泣きか。俺は騙されないぞ。
「全然揺れてないよ」と、これまた気を使った(ダマされた)海川が、「右川ぁ。ちゃんと授業は出ようよ。リスニングは試験でも大事なんだから」と、やっぱりムダな説得にかかる。
「痛い……マジで……頭と……心も……」
「だよね。分かる。でもとりあえず授業は出よ?座ってるだけでいいから」
んなワケねーだろ。
聞いてると、桂木は右川を甘やかすタイプらしい。
俺は力を緩める事無く、右川を引きずり、すっかり始まって大遅刻の授業へ飛び込んだ。
「これが終わったら帰るっ。本っ当に帰るからねっ!」
「うん。いーよいーよ。僕から松倉には言っておくから」
「ダメだよ。放課後は生徒会。会長の仕事、溜まってるよ?」
「うッ。お腹、痛たたたた……」
放課後も……再び、引きずる事になるのかよっ!