この恋。危険です。
それに。
彼は、出勤すると、朝と夕方、必ず担当の患者さんの様子を見に行く。
カルテ上で、変わりがないとわかっていても。
「田中さん。どうですか?今朝は、しっかり食べました?」
「あ、先生。先生の顔見たら元気でますわ。」
患者にむける顔は優しくて、朗らかで。大切にしていることが伝わってくる。
「患者さんとは、信頼関係が大切だから。君だって、知らないドクターに診察されるより、知ってるドクターの方がいいだろう?」
そう言って、微笑む。
でも、優しいだけじゃない。
厳しいことを言うときは、きちんと言う。
ある日。
朝、バイタルチェックに行った時、患者さんから竹中先生に言付けを頼まれた。急ぎの用ではなさそうだし、カルテに記載するほどてをもない。すぐには先生が捕まらなかったから、後回しにしていた。
それが、患者さんから直接竹中先生の耳に入ったらしい。
後から竹中先生に呼ばれて言われた。
「なんで、すぐに伝えなかった。報連相は基本だろう。」
「はい。」
でも………
「いいか。内容の問題じゃない。看護師を通して伝えたはずのことが伝わってない。患者さんの立場ならどう思う?信用できるか?」
そう言われてはっとする。
「でき、ません。」
「だろう?確かに、必要かどうか、急ぎかどうかを現場で判断するのは大事だけどね。以後、気をつけて。」
「はい。」
患者さんの気持ちに立って考える。
どうやら、私は業務にかまけ、看護師にとって必要な気持ちを忘れかけていたらしい。
「気をつけます。」
そういうと彼は、安心したように微笑んでいた。
彼の言葉から、行動から、彼の人柄が伝わってくる。
仕事に対して真摯に向き合う人。人に対しても物事に対しても、誠実な人。
こんな人。
好きにならないわけがない。
でも、
彼は、結婚してるから。
私の想いは実らない。
この気持ちは忘れなきゃいけない。