この恋。危険です。

心に決めたはずだった。

私はてっきり、連絡先聞かれたり、強引にご飯に誘われたりするのかと思ってた。
そしたら、はっきり『NO』と言えるのに。

でも、彼は、私がNOと言わないような、言えないようなことしかしない。

ふと目が会う瞬間が多かったり。優しい笑顔で微笑まれたり。
廊下ですれ違うとき、「がんばって」と軽く頭を撫でられたり。

そして……

夜8時。
「友里。」

いつの間にか、2人で話すときは名前で呼ばれるようになっていた。

PCに向かう私に、竹中先生が缶コーヒーを手渡してくる。
私の好きなカフェオーレ。彼は、ブラックを飲んでいるから恐らくこれは私のために買ってきたもの。
「ありがとうございます。」
「こんな時間まで、なにしてるの?」
「佐藤さんの新しい薬の副作用調べてるんですけど。なかなか欲しい情報がみつからなくて……」

一口副作用と言っても、いろいろあるわけで。
アナフィラキシーのようなすぐに現れる副作用もあれば、ある程度使用してから出る副作用もある。ある程度薬の特性を理解した上で、患者さんの状態をアセスメントしていかなくてはいけない。
例えば、1週間程で出るはずの副作用と同じ症状が、初日に出たならば副作用ではない可能性を疑うし、1週間たったころ出るならば副作用の可能性が高いということ。

そんなわけで、調べてるのに副作用情報がなかなか出てこない。
薬の作用機序で、なんとなくの想像はつくけれどそれが正しいかわからないし、添付文書には、副作用の発生時期なんて書いてない。
新しい薬だから仕方ないのかなぁ……

竹中先生が私の画面を覗き込んでくる。
「あぁ。これ。ちょっと待ってて。」
そういうと、彼はドクターが書類をおいてある棚から1冊のファイルを取り出し、目を通していく。
「あった、あった。これこれ。」
そう言って渡されたのは、その薬のパンフレット。
そのパンフレットなら看護師側でも持ってるし、確認もしたけど………
不思議に思って見てみると、いろいろとメモが書き込んである。
「手書きのメモで悪いけど、MRが説明に来たときに聞いておいたんだ。薬剤部にも聞いてみたし、大丈夫だと思う。また、ちゃんとした文献見つけたら渡すよ。」
そう言って微笑む。
「ありがとうございます。」
「ん。無理するなよ。」
甘い空気だけを残して去っていった。
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