この恋。危険です。

彼を避け始めて1週間。

あの日以降、私は地味な格好をやめた。

地味な格好をすれば、あのときの気持ちを思い出してしまうから。

惨めな気分とどろどろした感情。自分のなかに、こんなに汚くて黒い気持ちがあったのだと思い知らされた。

それに。

これじゃ、いけないと思った。
竹中先生のことは自分ではどうにもならないこと。
だから、
彼への想いを振り切って、1歩前に進むために。常に自分らしくいようと思った。
昔から、失恋したら女は髪を切ると言うけれど、気分を変えると言う意味ではそれに近いのかもしれない。

コンタクトをはめて、化粧をする。マスクをするから、アイメイクはしっかり、他は手直ししやすいようにしておく。髪はシュシュを使ってまとめあげた。
「よし。」
これが、今の私の勤務スタイル。
かわいいというよりは、できる女風。

更衣室で着替え終え、ナースステーションへ向かう。
「おはようございます。」
「おはよう。」
1週間たった今は、まわりもだいぶ慣れてきたけれど、初日はみんなかなり驚いていた。

『友里さん、どうしたんですか?!』
『友里さんって、実はかわいいんじゃないですか!!』
『彼氏できたんですか?!』
さんざん質問されたけど、「ちょっと気分を変えようと思って。」と誤魔化した。
チャラいと噂の同僚(男)から、呑みに誘われたりもしたけれど、それは軽くあしらっている。見た目が変わるだけで手のひらを返したような態度なんて最低だと思う。

唯一、心配してくれたのはさくらだった。
『竹中先生となにかあった?』
さくらに心配そうに尋ねられ、さくらにだけは事情を話した。話ながら泣いてしまったけれど、彼女はゆっくり聞いてくれた。自分を偽ることなく、強がることなく話せる彼女のおかげで、自分の気持ちを少しだけ整理することができた。


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