この恋。危険です。
とは、言っても、先生と普通に話せるほどの気持ちの整理なんてできてない。
私は、未だに彼を意識的に避け続けてる。
目も合わさないし、口も聞かない。患者さんのことはカルテに書いておけば事足りる。
彼が、仕事ができる人なのも理由の一つ。話しかけなくても、催促しなくても、お願いしようと思ってたことができているのだ。こちらから、わざわざ声をかける必要がない。
それに、私も彼も夜勤や当直で勤務時間が合わないこともある。
よって、この1週間全くかかわりなく過ごせていたのだけれど。
彼のことをずっと避けてたのに、今朝、ミーティングの直後を狙ったように捕まった。
「上原さん、今日の林さんの処置の介助頼むね。」
なんで、私が。担当看護師がやればいいじゃん!!
「なんで、私なんですか?担当がやればいいでしょう。」
そう言って、担当の看護師を見るけれど……
目が合った瞬間首を振られる。
「彼女にお願いしようとしたんだけどね、手一杯だから、他の看護師にって言われてね。」
確かに。あの子の今の状態に+αはきついだろう。能力からして、オペ後の患者さんで手一杯だ。
とはいえ、私だって、自分の業務があるんだけど。
「上原さん、処置の介助お願いね。」
そう言って、微笑う。
彼は絶対確信犯だ。仕事に託つければ私が断らないことも、処置の介助につく時間くらい作れることも。全部わかって頼んできてる。
しかも、わざわざみんなの前で。断りにくい状況まで作り上げて。
くそっ!!
「わかりました。」
処置終わったら、速攻で片付けて逃げてやる。
処置室で竹中先生が患者さんの傷口を確認してる。
「うん。いいですね。」
あー。気まずい。
先生だって、私が避けてることに気づいてるはず。
「はさみちょうだい。」
「はい。」
中のはさみに触れないように、滅菌の袋を破って渡す。
ドレーンを少しずらすつもりらしい。固定するための針と糸を準備する。そんな私を見て、彼がふっと笑う。
「流石だな。」
「なにがですか?」
「言わなくても、気づくところ。」
そりゃ、やること見てたらわかるでしょ。
「痛くないですからね。ちょっとじっとしててくださいね。」
そう言いながら、先生は器用にドレーン固定をし直していく。
悔しいなぁ。
患者さんに関わる先生はやっぱり、素敵だと思う。