この恋。危険です。
そういえば………
「もしかして、竹中先生って'海斗さま'ですか?」
当時、うちの学年の医学科でダントツでかっこいいという噂だった。
いろんな子が告白したけれど、『好きな子がいるから』と断り続けていたらしい。'モテるのに硬派なところがいい'とさらに株が上がっていた。
「それ、知ってたの?すっごく恥ずかしいから嫌なんだけど。」
彼が困ったような顔をする。
「俺としては、いろんな子にモテるより、ただ1人に好きになってもらえたらそれでよかったんだけどね。それは、叶わなかった。」
もしかして……
「友里のことだよ。ずっと、君が好きだった。」
うそ……
「確かに、この10年間彼女がいなかったと言えば嘘になる。もう、会えないから、忘れなきゃいけないと思ってた。でも、やっぱり忘れられなくて、誰とも長く続かなかったよ。」
彼が自嘲気味に笑う。
「2度と会えないと思っていた君をたまたまここで見かけたのが1年半ほど前。たまたま同僚と呑みに来たら、君がそこに座ってた。」
カウンターの一番奥。私が今座ってるところ。私がいつも座るところ。
「照明も暗いし君だという確証はなかったよ。でも、可能性があるなら、もう一度会いたいと思った。それから、何度もこの店に来たよ。」
彼がゆっくり話を続ける。
なんと言ったらいいかわからなくて、ただ彼の話に耳を傾けた。
「君を見かけると、君は必ずそこに座ってた。来るとすぐにその席を確認するようになってたよ。そこは君の席だから。でも、いつからか、君がいないときは俺が座るようになっていた。」
ストーカーだと思わないでくれよ。そう困ったように笑う。
「たくやさんとは、君の話をしたことがあるんだ。」
え?!
たくやは、仕事柄、他のお客さんの個人情報を漏らしたりはしない。よほど驚いた顔をしていたらしい。
彼が笑って付け加える。
「もちろん、君のことを聞いたわけじゃないよ。たくやさんには、君が会えないと思っていた好きな人に似ているって話したんだ。その好きな人との出会いや一度も話せないまま会えなくなったことも含めて。もし、君が好きな人だと確信できたそのときは、話をしたいということも。」