この恋。危険です。
4

彼が話ながらちびりちびりとワインを飲む。

「病院で再会したのは、ほんとに偶然だったんだ。」

あの日のことは覚えてる。

「『日勤リーダーに伝えてある』って言われてたから、ミーティングの様子を見計らって声をかけた。驚いた君を見て驚いたよ。なんでいるんだろうって。」

え、じゃぁ。
「すぐに気づいたの?」
「もちろん。確かに、Canonで会う君とは全然違ってた。でも、俺が10年前初めて出会った君は、化粧なんてしてなかったからね。」
そう、いたずらっぽく笑う。

あぁ、この人はほんとにずっと私のことをおぼえていてくれたんだ。

「あのときは本当に驚いた。でも、せっかく出会ったなら、もっと近づきたいと思ったんだ。最初から押したら引かれると思ってできるだけ普通に接してた。
そろそろいいかなと思って食事に誘ったけど、断られるし。ちょっといい雰囲気だなって思ってたら、今度は避けるし。」

彼が拗ねたように言う。

「結婚してると思ってたもん。」
「ずっと勘違いさせてたんだな。ごめん。」
彼が、私の頬を優しく撫でる。

「俺は、ずっと君が好きだった。
病棟で、働く君を見て、もっと君を好きになった。
泣いてる君を見て、俺が守りたいと思った。」

じゃぁ、さくらが言ってた'ずっと想ってる人'って、私のこと?
彼の話に頭がついていかない。ずっと想ってくれていたなんて信じられない。

「ほんとに?」
「まだ、疑う?友里が好きだよ。友里の身内がいる前でウソ吐けるほどずぶとくないよ。
友里に好きな人がいるなら、その人と上手くいってるなら、諦める。だから、友里の気持ちもちゃんと教えて?」

彼の言葉にうそがあるとは思えない。入試の時の話だって、本人くらいしか詳細なんておぼえてないはず。
なら、彼の言うことは本当なの?
彼の言葉を信じたい。

私も彼が好きだから。

でも。
もし、彼の言葉がウソだったら?私だけじゃなかったら?

ドクターなんて信用できない。ずっとそう思ってきた。
ドクターというだけで彼を信じないのは間違ってると思う。
でも。

信じることが怖い。
好きな人に裏切られたら……

恋愛から遠ざかっている間にすっかり臆病になってしまっていたらしい。
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