この恋。危険です。
「友里?」
黙ってうつむく私に彼が優しく声をかける。
「やっぱり、迷惑、かな?」
困ったように笑う彼に胸が痛む。
違う。そうじゃない。
ただ、
「怖い。」
「え?」
「信じることが怖い。」
彼は一瞬きょとんとしたあと、はっとしたような顔をした。
「それって、さっき、『ドクターは平気で不倫や浮気をする。』って言ってたこと?」
さすが、敏い。
「うん。」
「言いたくなければ言わなくていいけど。なにか、あった?」
彼に、ドクターを信じられなくなった経緯を簡単に話す。彼は複雑そうな顔をしながら聞いていた。
「そっか。俺のまわりにもいるし、信じられなくなる友里の気持ちもわかるよ。」
責めるでも反論するでもなく、受け止めてくれる彼の言葉。
こういうところ、好きだなあと思う。
「でも。」
でも?
「友里の気持ちは?ドクターじゃなくて一人の男として、俺のことをどう思ってる?」
彼の目が私を射抜く。
そんなの。そんなの。
「好き………だから、信じるのが怖いの!!!」
聞かないでよ。察してよ!!
「よかった。」
突然かれにぎゅっと抱き締められた。
「今は信じられなくてもいいよ。これから、友里だけだって信じさせてみせるから。」
彼の声が耳元で聞こえる。
こんなことされたら、どんどん気持ちが溢れてくる。
私だって、ほんとは……
「私。本当は、canonで、'カイ'に出会ったときからいいなって思ってた。何度か会って、どんどん好きになっていった。」
気持ちと一緒に涙が溢れる。
「でも。病院で、竹中先生に会った。結婚してるって思った。」
竹中先生が、息をのんだのがわかる。
「絶対、好きになっちゃいけないと思ってた。好きになったら辛いから。
でも、一緒に仕事して、近くで見てて。どんどん好きになっていった。先生の優しさに助けられた。先生にたくさん励まされた。
だめだと思うのに竹中先生に先生に惹かれていくのを止められなかった。
好きすぎて、他の人を想う先生のそばにいるのが辛かった。」
涙がどんどん頬を伝う。
「友里。」
私を抱き締める腕に力がこもる。ぎゅっと強く抱き締められた。
「誤解させてごめん。俺が好きなのは君だけだよ。」
「私も好きです。」
好き。大好き。
今はまだ、信じるのが怖いけれど。
きっと彼なら大丈夫。
彼のことを信じたい。
そう思えた。