バレンタイン・ラプソディ
既に教室には誰もいない。

「流石に教室でチョコの山を広げてたら、先生に見つかった時点で取り上げかな?」

机の上に出した自分が貰ったチョコの山を横目に、植草は不安になったのか廊下を確認しに行く。

「確かに…。没収されちゃうかもね?」

そう答えながらも。
私の視線は、その無造作に置かれた包みの山へと注がれていた。


(ここに一緒に置いてしまえば、分からないかも…)


すぐさま植草が向こうを向いている間に自分のバッグからひとつの小さな包みを取り出すと、その山へと(まぎ)れ込ませた。

「とりあえず、大丈夫そうだな。今のうちに数えちゃおうぜ」
「うん…」

扉を閉めて戻ってくる植草を意識しないように、自分の貰ったチョコが入った手提げ袋から黙々とそれらを取り出した。
そう。私は昨日、植草にあげる為のチョコを買ったのだ。

(頼まれたから。それだけだし…)

でも、それでも面と向かって渡すことなんか出来なくて。
結局のところ数に協力すれば良いのだから、これでいいのだと自分で納得する。



「十五個だよ」

自分の分を数えて報告する。

「14、15、16…。あれ…?オレのは十六個?」
「植草の方が多いんじゃん」

(きわ)どかった。私の一個が丁度効いてたみたいだ。

「良かったね。これで気が済んだでしょう?じゃあ…私はもう、帰るね」

そそくさと包みの山を手提げ袋へ戻して片付ける。

「………」

植草は何か考えているようだったけど、もう関係ない。
私が協力してあげられることは、全てやったのだし。

「じゃあ…告白、頑張ってね」

それだけ言うと、荷物を抱え教室を出ようした。
その時だった。

「高山…。もしかして、オレにチョコくれた?」
「…っ…」

後ろから掛かった声に驚き、その場に足を止めた。

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