バレンタイン・ラプソディ
「なん、で…?」

思わず声が(かす)れそうになる。

「オレさ、今日貰った数…だいたい覚えてたんだ。記憶では確か十五個だったハズなんだ」
「………」
「これ、お前がくれたんじゃないの?」

その声にゆっくりと振り返ると。
植草の手には、さっき私が置いた小さな包みが乗せられていた。


「………」
「………」


思わず視線が絡み合う。

(何か…。早く、何か言わないと…)

植草に変に思われない内に。

「ば…バレちゃったか。それ、頼まれてた分ね。でも、良かったね。まさか…それが、決め手になるなんて…思わなかったけど…」

明るく笑ったつもりが、徐々に声が小さくなっていってしまう。

(あああ馬鹿ーーーっ!これじゃ思いきり不自然じゃんっ!!)

自分に自分でツッコミを入れるも、もう遅い。

「高山…」

植草が微妙な顔をした。
そんな表情を見ていられなくて、

「とにかく…そういうこと、だから…」

それだけ言うと。
今度こそ笑顔で「じゃあ、帰るね」と向きを変えると、教室の扉へと向かった。


「サンキュ、高山。お前のお(かげ)で決意が固まったよ」


後ろで植草の呟く声が聞こえる。

「告白する勇気、貰ったよ」

珍しく、真面目な声。

「…それなら、…良かった」

植草に背を向け、扉に手を掛けたまま私も呟く。



本当は複雑だった。
これから植草が誰かに告白する。
そんなの、知りたくもなかった。

(だいたい、何で私に相談なんかするかな…)

何だか無性に泣きたくなってくる。

(こんな気持ちになるなんて。…やっぱり、バレンタインなんかいいことない。大嫌いだ…)

いくら友人の為とはいえ、チョコを贈るなんて(ガラ)にもないことをするから。

(馬鹿だなぁ。私…)

浮かびそうになる涙を必死にこらえながら。
扉を開こうと手に力を込めた、その時だった。
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