さよなら、大好きな人
だが誰の姿も見えなかったので空耳かな?と思い、また前を向いて歩き出すと今度はハッキリと私の耳に響く。


その声が聞きたくて仕方ないけれど、今、何よりも聞きたくなかった声。




「ティナっ‼‼」


――ラウルの、声だった。



私はハッキリと自分の名前を呼ばれて、足を止める。

それを確認したラウルは息を荒くして必死に整えようとしながら、振り返ろうとしない私に視線を向ける。



「……ティナ。……俺に黙って、行く、つもりだったの?」


「……」



息を必死に整えながらラウルはゆっくりと、言葉を途切れながらも問い掛ける。

その問いに答える声はない。



「俺は、そんなにも君の中で小さな存在だった?」

「ちがっ……」


「なら、何で?」


「……っ」

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