さよなら、大好きな人
そこまで話し終わると、思い出してまた涙が溢れた。止め処ない涙が瞳から零れ落ちてゆく。


だから旅に出た。一人で、旅に。

両親には告げたけど、あの人には何も言わずに、あの人と過ごした場所から逃げた。そうしなければ忘れられないって思ったから。



それなのに忘れるどころか、あの人はいまでも鮮明に自分の中に在り続ける。
忘れるって約束したのに、全然果たせそうにない自分が悔しくて、仕方がなかった。



そんな私の話を黙って聞いていたラウルはぎゅっと抱きしめる力を強める。


ただ抱き締めたまま、私が泣きやむまでそのままで居てくれた。



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