さよなら、大好きな人
私は瞼に乗せていたタオルをゆっくりと取ると、ラウルへ視線を向けた。
向けられたことにさえ気付かないラウルを見ながら、何て声を掛けるべきだろうか。
そう思いながらも私は一つ疑問があった。
どうして彼は、見ず知らずの自分に声を掛けたのだろう。
「ラウル……」
「……うん?」
「ラウルは、どうして私に声を掛けたの?」
「え?」
しばらくの沈黙の後、躊躇いがちに私が名前を呼ぶと、そっと目を見開いてラウルは僅かに微笑みながら首を傾げる。
「見た事のない人だった、から?この街の人じゃなかったから?」
「それは、あるかもしれない。でもそれ以上に……」
「?」
「……」
私が言葉を選びながら気になったことを問い掛けると、ラウルは小さく頷いて答えるように言葉を紡いだのだが、その途中で口を閉じた。