さよなら、大好きな人
だからこそそう言葉を紡げば、服を握っていた手をそっと離してラウルの手を握る。

握られたラウルは驚いたような表情を見せたが、その手が震えていることに気付いたようで特に何も言うことはせずに握り返してくれた。



「……帰ろうか、ティナ」


「うん」



ラウルが一言そう言うと、私は強張らせていた表情をほんの僅かに緩めて小さく頷く。

教会から出ようと歩き出すとふと後ろから声が掛かった。



「あの……‼」

「……」



呼びとめたのはミアさんで、その声に歩き出していた足を一旦止める。



「……あの。……私、は」

「ロイを、お願い、します」
「……っ、ティナ‼」



ミアさんが何か言い掛けたことに気付いた私は必死に早口で言い、ラウルの手を引っ張って急ぎ足で歩き出す。



私の言葉が聞こえたロイは耐えられなくなったかのように名前を呼ぶが、その声に振り返ることはなく私とラウルはそのまま教会を出て行った



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