さよなら、大好きな人
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ティナちゃんの姿が見えなくなった頃合いに、ラウルくんはヴァイオリンケースを持ちながらゆっくりと姿を現した。
「今日は遅かったのね?ラウルくん」
「多分、俺が近くに居ない方がいいような気がして」
どこか寂しげな表情をしているラウルくんを見て、困ったような微笑みを浮かべつつも私は首を傾げた。
「それは、どうかしらね?」
「……。とりあえず俺も行きます」
どう言う意味か、という表情をしたラウルくんであったが、私が答えないとわかったのか一つ溜息をつく。
ラウルくんが歩き出そうとした時に私から声を掛けて聞いた。
「ヴァイオリン、弾くの?」
「ティナのために弾きますよ、きっと」
少しだけ考える仕草を見せたラウルくんであったものの、手に持っているヴァイオリンケースへと視線を落としながらどこか自信があるかのように言い切る。
そのままラウルくんは歩いて行ってしまい、私はどこか満足そうに微笑みながら見送った。
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