さよなら、大好きな人
紡がれた言葉を聞いた瞬間、ミアさんは嬉しそうに笑みを浮かべ、ロイはどこか泣きそうな、でも幸せな笑顔を浮かべて「ありがとう」と返す。


私はそっと最後に微笑み返せば、踵を返して歩き出した。



泣きそうになっている自分を叱咤しながらゆっくりと歩く。

教会の正面の方まで来ると、ふと聞き覚えのある音楽が耳に響いた。



聴こえてきた音に私ははっとした表情になり、きょろきょろと辺りを見回すも人が多過ぎて目当ての人を見付けることは出来ない。

人を掻きわけながら音楽が聴こえる方へと急いで歩き、ようやく人込みを抜ける。


そして見えたのは、ヴァイオリンを構えて音楽を奏でているラウルの姿だった。



「ラウル……」



小さな声でそっと名前を呼ぶと、ヴァイオリンを弾いていたラウルが手を止める。

私を視界の中に入れて柔らかな微笑みを浮かべた。

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