さよなら、大好きな人
「おかえり、ティナ。……言いたいことは、言えたみたいだね」


「……っ」



微笑みながら言われた言葉に私は驚いたように目を見開く。

胸がいっぱいになった私は、答えることは出来なかった。



「前へ進めたティナへのお祝いの曲。気に入ってもらえ……」



それすらもわかっているかのようにラウルは微笑みながら、ヴァイオリンを下ろしながら話していた。


どん、という衝撃が走ってラウルの言葉は途中で途切れる。

私がラウルに抱きついたからだ。


ラウルはヴァイオリンを持っていない方の手でそっと私の頭を撫でてくれる。



泣いているのに気付いているだろうラウルは、何も言わずに。

結婚式が始まるまで、ずっとそのままで居た。



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