さよなら、大好きな人
私はその言葉に反応することはなく、驚いたままじっとラウルを見ていると。



「ティナ?」



不思議そうに自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、はっと慌てたように首を横に振る。


「あ……、な、何でもない‼」



「そう?」



きょとんとした表情でラウルは首を傾げるも深く問い掛けることはなく。

帰ろうか、とそう告げると当たり前のように手を差し伸べる。


差し伸べられた手に私はそっと手を乗せ、握られるとゆっくりと歩き出す。



――結婚式は終わってしまった。


つまり、それは自分がここに留まる理由がなくなったということ。元の旅へと戻るということ。



そして、それは今手を繋いでいるラウルとの別れを示していた。

ずきり、と痛む胸に気付きながら、私は何かを言うことが出来ずにいたのだった。



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