さよなら、大好きな人
思いがけない姿に私は驚いた表情を浮かべると、ラウルくんは少々申し訳なさそうな笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。



「ティナは、起きてますか?ちょっと話したいことがあって……」


「……」


「……?アンナさん?」



申し訳なさそうな表情のまま問い掛けるものの、私からの答えが返ってこなかったためにラウルくんは不思議そうに声を掛ける。



「ついさっき、旅に出るって言って出て行ったわ」

「え……、っ‼」
「ラウルくん‼」



言うべきか言わないべきか迷ったが、私はゆっくりと端的にそう告げた。

最初こそ何の事を言っているか理解出来ていない表情であったが、すぐに理解すると何か言う前に走り出したラウルくん。


いきなり走り出した彼の名前を呼んだのだが、止まる様子がなかったために私は僅かに苦笑を浮かべた。



――追い付けますように。

心の中でそう、祈りながら。


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