暗闇の中に放たれた光~完全版~
それは妹の誕生日を迎える前の日だった。

少し肌寒い気温で、傘がいるかいらないかの雨だった。

当時の俺の貯金箱はいくらひっくり返しても音がしなかった。

小遣いをもらうことなどなかったからだ。

それでも妹を持つ兄として、何としても妹の誕生日を祝ってやりたかった。

悲しい誕生日をあの年で感じさせたくない。

だからせめて、と考えた。

そして俺は、友達を使おうと思った。


使うといっても、「ひったくろう」とかではない。

たかが百円二枚を借りようとしたのだ。

だが俺にとっては百円二枚も借りようとしたのだ。
< 5 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop