心にきみという青春を描く
ふう、と息を深くはいたあと、私は意を決してドアを開けた。
ガラガラ……と、静かに開いたドアの向こう側からは、眩しい西日が射し込んできて、一瞬だけ目が眩んだ。
同時に鼻を通り抜けたのは絵の具の匂い。
よく苦手という人もいるけれど、中学校の時に金曜日の五時間目にあった美術の授業が一週間の楽しみでもあった私は、絵の具や粘土や創作をする上で使う道具の香りがとても落ち着くのだ。
そんなことを考えていると、目がだんだんと光りに慣れてきて美術室の様子がはっきりと瞳に映るようになってきた。
「あ……」
思わず声が漏れてしまった。
西日が当たる部屋の中央には、絵を描いている人がいた。
床に画板を置いて、その上にある真っ白に紙にまるで猫のように背中を丸めて筆を動かしている男の人。
ゆっくりと視線が私のほうに向いて、垂れ下がる前髪から見えた瞳と目が合った。
……ドキッ。
本当に猫みたいに真ん丸な瞳だと思った。
「誰?」
静かな美術室に響く声。作業の邪魔をしてしまったせいなのか、少し不機嫌そうだった。
「え、えっと、その……」
ああ、聞かれてるのにうまく言葉が出てこない。
「もしかして新入部員?」
「は、はい、そうです!」
返事をした声が思っていた以上に大きくなってしまい、顔が熱くなる。
「じゃあ、きっと喜ぶよ。今年はひとりも来ないんじゃないかって言ってたから」