心にきみという青春を描く



「おかしく思わなかったか?俺がやたらと葵に冷たくしてたこと。本当は優しくしたかった。でもできなかった。引っ付いてくるあいつと距離をとることが、守ることだって思ってたから」

日向くんの言葉から見えるひとつの可能性。


「でもあいつがお前のことを好きになって、やっとこの気持ちを手離せると思った。そしたら、不思議と優しくできた。俺ははじめて葵のことを妹だって思えることができたんだよ」


日向くんは葵さんのことを……。

先輩もその事実に気づいたようで、声が出せずにいた。すると、日向くんはさらに訴えるような眼差しをした。

 
「感謝してた。お前には。ずっと仲良くやってほしいってマジで思ってた。でも今は後悔してる。それはあいつがお前のせいで死んだからじゃない。一番あいつの気持ちを分かってるはずのお前が、検討違いのことをグダグダ言ってるからだよ」

「……日向」

「あいつはお前のことが本気で好きだったから身体が動いた。怪我をさせたくなかった。絵を描く手を守りたかった。そうやって本能で行動するヤツだっただろ?」


日向くんは本質を見失っていた先輩に対して怒っていたし、許せなかったのだと思う。


葵さんを大切に想ってる気持ちは同じ。でも日向くんは悲しみには浸らない。

きっと人知れず泣いて、もがき苦しんだ夜もあったと思うけれど、振り返りはしない。


だって、だって……。

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